
装画:マッチロ
6月に出た本。音楽のマルチプレーヤー高田漣による初の長編小説である。「SF的青春私小説」とあるので読んでみた。全部で3幕(章)から構成されており、第2幕、第1幕、第3幕の順番で「ケヤキブンガク」に発表し(《吉祥寺三部作》と称している)、さらに補筆(幕間を追加)改稿したものという。
キャプテン・フューチャーへの救助信号を夢想する少年で幕が開く。1994年7月、主人公は『44/45』と記されたフロッピーをサンプリングする。そこから、1942年のドイツで原子爆弾を開発する研究者が日本視察を命じられる物語や、どことも知れない異世界/並行世界/近未来で永遠の生と引き換えに生存権を失う市民たちのお話が断片となって現われてくる。
90年代末(世紀末)の高円寺、吉祥寺、三鷹などの風俗描写、音楽シーンは通奏低音のように作品全体に広がっている。一方、第2幕では、1921年から始まるエピソードと近未来の物語の短章に文学作品や歌の表題がランダムに付けられ、第3幕では、サンプリングマシンのパラメータ設定コマンドがそこに重なり合ったりする。
確かにSF的フィクションと私的体験(これもフィクションかも)とが混じり合っている。幻想と現実とが(章立てされているとはいえ)シームレスに溶け合っていて判然としないが、吉祥寺界隈とか90年代音楽とか、それらに親しみ/ルーツを持つ読者には(基盤となるリアルがあるから)最適な案配かもしれない。ある意味、読み手を選ぶ作品だろうと思う。
- 『ビビビ・ビ・バップ』評者のレビュー