ピーター・トライアスによる《USJ三部作》完結編。第一部『ユナイテッド・ステーツ・オブ・ジャパン』(2016)は星雲賞を受賞するなど日本での評価が高く、第二部『メカ・サムライ・エンパイア』(2018)の翻訳は原著のアメリカ出版に先行するほどの人気だった。本書も2020年3月に原著が出たばかりの最新刊である。これまでと同様、文庫版とSFシリーズ版が同時刊行されている。SFシリーズ版ではカラー口絵、番外編未完長編の一部、掌編、エッセイなどのボーナストラックが含まれる。
2019年、日本に統治されたアメリカUSJで不穏な動きが生まれる。現在の総督が敵であるナチスと内通しているというのだ。秘密結社〈戦争の息子たち〉は軍内部にも浸透し、ついに決起する。しかし、政権交代もつかの間、今度は伝説の暗殺者ブラディマリーによる無差別テロ攻撃により、USJ国内は大混乱に陥っていく。
主人公は陸軍の軍人で巨大ロボットメカの操縦士、特高警察のエージェントとともにブラディマリーの正体を追う。今回もさまざまなロボットメカが登場する。主人公が搭乗するのは敏捷なカタマリ級(口絵)で電磁銃が主要な武器、表紙に描かれた赤いシグマ號は巨大チェーンソーを振りかざすラスボスだ。
前作の設定から20数年が経過、主要な登場人物は入れ替わっている。近い将来を予感させる前巻の終わり方からすると、ちょっと意外な展開だろう。結果的に、各巻は(一部を除いて)異なる物語なのだ。ディック『高い城の男』を意識した第一部、ナチスのバイオメカと戦う第二部、同じUSJのメカ同士が戦う第三部を通して読むと、各巻の独立性を重視する著者の考え方がよく分かる。爽快なロボットバトル小説であると同時に、「先軍国家USJ」の矛盾もまたむき出しになっていくのだ。三部作はこれで終わるが、狭間にはまだいくつものエピソードが隠されている。
物語とは関係ないが、本書の中には、訳者を含め聞いたことのある日本人の名前(音のみ、漢字は意図的に変えてある)が複数出てくる。USJ紹介に貢献した、日本側関係者に対する感謝なのだろう。