第1回小松左京賞の受賞作『エリ・エリ』の続編。解決されなかった多くの謎に、決着をつけたという点で注目に値する。何といっても“神の探求”をテーマとした作品なのである。
巨大な人工天体「サジタリウスACB」の出発点をたどる旅に出た主人公の榊は、ブラックホールを経て遙かな未来、未知の空間に転移する。そこは純粋情報にまで進化したイッキスィア文明と、野蛮な征服者ウォダとがせめぎあう殺伐とした世界だった。けれども、彼はかつての同僚だったクレメンタインと、カズミたちの存在を感じ取る。彼らはなぜここにいるのか、何のために生きているのか…。
聖書は人類史上最大のファンタジイでもある。最近、聖書からの引用を多用する作品が多い。小林泰三『ΑΩ』、田中啓文『ベルゼブブ』などが代表的であるが、本書の内容はまさに黙示録的な聖書そのものと言っていい。そこに、転生輪廻と争いを希求する生物の業をからめ、半村良『妖星伝』並みのスケールを見せてくれる。
同時に、本書は、これまでの諸作中、もっとも光瀬龍作品に近い構造を持っている。光瀬は、悠久の時間を描きながら、視点を常に“人間”に向けてきた。作品の多くが、歴史や国家自体をテーマとしていない点を見ても分かる。本書でも、神は文明(全体)の側にはなく、常に主人公(個)の葛藤の中に存在するのである。
本書の結末で、舞台となる宇宙の謎は大半が説明される。しかし、“神の探求”についてはどうなのか。現に、愛すべきものの死を説明できる“神の概念”など存在しない。神は在るのか、ないのか。
その答えとして、作者が物語を書くきっかけになった、2行の言葉が記されている。
(死を見取った)わたしはいきつづける。
(死んでいった)あなたもいきつづける。
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