なかむらあゆみ編『巣 徳島SFアンソロジー』あゆみ書房

装画:津田周平
デザイン:アドレナリンデザイン

 Kaguya Books(VGプラス)の一環として出版されたアンソロジー。同叢書は出版社を問わず、横断的に本(主にはアンソロジーやコレクションなどの作品集)を企画する形態をとるようだ。本書の編者なかむらあゆみ第4回阿波しらさぎ文学賞を受賞、賞金であゆみ書房を立ち上げて女性作家による文藝同人誌『巣』などを出している。今回はKaguya Books側からの働きかけを受け、徳島に所縁のある作家(男女を問わず)を集めたものという。徳島県内を除けば書店での取扱いは限られるが、通販(上記書影のリンクを参照)での入手が可能だ。

 前川朋子「新たなる旋回」(前後編から成る、徳島のどこかを切り取った5枚の写真)。田丸まひる「まるまる」(詩)幼稚園児が集めた隕石のダンゴムシがどんどん増えていく。小山田浩子「なかみ」部屋の整理に明け暮れるトモちゃんは、僕には見覚えのない鹿模様のポーチを見つけ出す。久保訓子「川面」手でつまめる小さな夫と共に、スーパーのチラシに惹かれて車で外出する。田中槐「三月のP」三階の窓を叩く光は宇宙人のような存在で、わたしの考えていることを理解している。高田友季子「飾り房」寺の総代と称する見知らぬ人からお参りを促された主人公は、猛暑の日に荒れ果てた墓にたどり着く。竹内紘子「セントローレンスの涙」ホームレスのネコと共に山でキャンプする男は、人形を連れたもう一人の男と出会う。なかむらあゆみ「ぼくはラジオリポーター」休業中だったかつての人気リポーターが、少年と共にふわふわおばさんの謎を追う。吉村萬壱「アウァの泥沼」全身から気力が抜けてしまう症状に苦しむ男と父親は、孤島にある泥沼に効能があると聞く。

 グラビア風に配された前川朋子による写真、寄稿作家による座談会や、田中槐によるお酒の写真と由来の説明もあるなど、雑誌風の構成になっていて読みやすい(判型もA5サイズ)。阿波しらさぎ文学賞の審査委員でもある小山田浩子(段落を一切設けない流れるような文体)、吉村萬壱(主人公のシチュエーションが異様で、その解決もまた異様)が目に留まるが、他の作家もそれぞれに実績を積んだ書き手で読み応えがある。

 テーマは徳島SFだが、そのSFを「S=そっと/F=ふみはずす」と定義している。「S=少し/F=不思議」と似ているが、そう思う/感じるだけでなく、実際に踏み外すという「行動」に含めるところがユニークだ。そっとふみはずした結果はとてもゆるやかに顕れるが、そこは現実から離れたもうひとつの徳島なのだろう。