門田充宏による新シリーズの一作目、続刊(『封印の繭と運命の標』)もまもなく出る。版元の紹介文に《ウィンズテイル》シリーズとあるので、さらに続いていくのだろう。同じ集英社のラノベレーベル(ダッシュエックス文庫/オレンジ文庫)ではなく、一般向けの文庫で出版されているのがポイントだ。
世界の大都市の中心部に黒錐門(こくすいもん)と呼ばれるゲートが出現する。そこから現れた〈徘徊者〉は、建物や人間の情報すべてを奪い取り〈石英〉に変化させてしまう。人類は抵抗するものの、120年にも渡る戦争により文明は大きく衰退し人口も激減する。ウィンズテイルは、そんな黒錐門の一つがある〈石英の森〉に面した辺境の町だった。
主人公は町守(徘徊者の侵入を防ぐ役割)見習いに就いたばかりの少年だ。町には、外観は子どもなのに120歳を超える時不知(ときしらず)の魔女がいた。魔女には異界紋=刻印があり、実は少年のうなじにもある。何らかの能力の徴なのだが、発現するまでそれが何かは分からない。そして、離れた都市から車椅子の少女が訪れたことで、町の状況は大きく変わっていく。
初期宮崎アニメの「未来少年コナン」とか「天空の城ラピュタ」のような、少年と少女の冒険譚を思わせる(これは解説で大森望が指摘しているとおりだろう)。登場人物の性格(内省的で過度の激情に駆られない)や行動(過剰なバトル/暴力に振り回されない)にしても、物語の展開(ファンタジーながらロジカルな設定に基づく)にしても、昨今のラノベとは異なりトラディショナルなスタイルである。とても由緒正しい少年少女もの=ジュヴナイルなので、こういう小説を求めていた読者には待望の一冊だろう。
さてしかし、本書はシリーズのプロローグにあたる。黒錐門の正体や刻印の謎の解明はこれから、少年と少女の関係は果たしてどうなる、という期待をはらみながら次巻に続く。
- 『風牙(記憶翻訳者 いつか光になる)』評者のレビュー