1月から続けてきたシミルボン転載コラムですが、今回が最終回になります。まだ数編は残ってはいるものの、その時々の出来事に合わせて書いた記事もあり、おさまりが悪いのでまたの機会に。最後は、ちょうどいまのシーズンに合う、3冊のホラー絵本紹介で締めくくります。以下本文。
世の中には「えたいのしれない怖さ」というものがあります。しっかりと見えたわけではないのに、けれど何かがいるような気がする。いつまでたっても正体がわからず、もやもやとしたままなので怖い。ひとめで化けものとわかる、怪物や妖怪がでてくるわけではありません。ただ、よく知っているものが不気味な形に見えたり、形のないものが無性に怖くなることがあります。そんな世界をのぞいてみたいのなら、この3冊の絵本がぴったりかもしれません。1つには見えないともだちが、1つには見えないものの正体が、さいごの1つには見えなかった本心があらわれてくるからです。
おともだち できた?
おんだりく(恩田陸)がかきおろしたえ本です。子どもむけの本で「こわいものはよくない」といううごきに、はんぱつしてかいたということです。それだけに、とてもこわい本になっています。
小さな女の子が、あたらしいいえにひっこしてきます。そこはたくさんのうちがたちならぶ町ですが、女の子はひとりであそんでいます。しんぱいになったおとうさんやおかあさんは、女の子にきいてみます。
「おともだち できた?」
人によってさまざまですが、小さなときにくうそうのともだちをつくる子どもはいます。それが「見えないともだち」です。子どもにとっては、ようせいやせいれい、ゆうれいやおばけ、うちゅうじんやかいじゅうだったりします。おともだちがやさしければよいのですが、生きものですらない「なにか」だと、ちゅういしないといけません。うっかりしりあったことで、そのせかいにさらわれてしまうかも。この本のいしいきよたか(石井聖岳)のえは、あかるい町のけしきが、くらいどこか、うらがわのどこかにかわっていくようすをえがいています。
はこ
『はこ』は、東雅夫の編集で10巻まで出た《怪談えほん》の1冊です(註:最終的に14巻まで出ています)。《十二国記》シリーズや『残穢』を書いた小野不由美の本です。
ある日、女の子が小さな「はこ」を見つけます。何のはこか分かりません。あけることができず、中からコソコソ音がします。あめのふる日に、はこは開きますが、なかみはからっぽ。するとこんどは、メダカのえさが入っていたはこが開かなくなります。しかも、メダカがいなくなってしまいました。そのあとも、はこが開くと何かがなくなり、また次の少し大きなはこが閉じていくのです。
「はこ」の中にはいったい何がいるのか。しだいに大きくなる(成長している)中身は、「えたいのしれない怖さ」そのもの。知りたいけれども、知ってしまうときっと不幸になるもの。正体がわからないものは、無用な想像をかきたてます。考えれば考えるほど、怖さは大きくなっていきます。たのしい想像ではなく、不安な思いをふくらませていくようです。どんな家にも、さがしてみれば開かない「はこ」が見つかるかもしれません。nakabanの描く絵は、クレヨン主体で、お話全体を夕暮れのようなくらさでおおっています。
駝鳥
この絵本は、作者の筒井康隆がデビュー間もないころに書いた、『欠陥大百科』(1970)に収められたショート・ショートをもとにしています(のちに短編集『笑うな』にも収録されました)。動物園でよく見かける、飛べない大きな鳥、駝鳥(だちょう)が登場します。
ひとりの旅行者が砂漠をさまよっています。旅行者の後ろには、なぜか大きな駝鳥がいて、あとをついてきます。最初のうちは食べものをわけ与えていた旅行者でしたが、いつまでたっても砂漠を出られないと分かると、ひとり占めしようとします。ある日、旅行者は自分が大事にしていた金時計が、なくなっていることに気がつきます。きっと駝鳥が飲み込んでしまったに違いない。そう思い込んだ旅行者は……。
砂漠にまよい込んだ旅行者と駝鳥、ふだんの生活ではおそらくめぐり会うことのない、とてもおかしなコンビが描かれます。旅行者は、駝鳥と仲よくなります。ただ駝鳥の感情をあらわさないひとみを見ても、相手が何を考えているのかよく分かりません。何のためについてくるのか、駝鳥はもちろん説明してくれません。このお話で「えたいがしれないもの」は駝鳥です。
ところが、旅行者はわがままに、駝鳥を利用するようになります。最初は旅のなかま、次に食べものをへらすやっかい者、その次は自分が生き残るための道具と、だんだんエスカレートしていきます。さいごになって「えたいがしれないもの」をもてあそんだ旅行者に罰がくだされるわけですが、それは自分のしでかしたことの裏がえしにすぎません。福井江太郎の絵は、駝鳥のコミカルなようす、反対側にあるぶきみさ、影と光を、とてもていねいに描きだしています。
(シミルボンに2017年7月4日掲載)