キャサリン・M・ヴァレンテ『デシベル・ジョーンズの銀河オペラ』早川書房

Space Opera,2018(小野田和子訳)

カバーデザイン:坂野公一+吉田友美(welle design)
カバーイラスト:jyari

 ヴァレンテは1979年生まれの米国作家。邦訳はファンタジーの《孤児の物語》(2006~07、全2巻)、《妖精の国》(2009~16、既訳は全5巻中の2巻まで)や『パリンプセスト』(2009)などがあるが、SF長編ではこれが初めてとなる。書かれた動機がちょっと変わっている。

 著者はユーロビジョン・ソング・コンテスト(USC)にどハマリ、年1回のイベントを熱心に実況ツィートしていた。USCは欧州放送連合(中東の一部を含む)の視聴者なら誰でも知っている超有名な音楽イベント(およそ70年の歴史がある)である。しかし、域外の国(アメリカを含む)ではあまり知られていない。そこに、フォロワーからのコメント「SF/ファンタジーのユーロビジョン小説を書くべきだ」がくる。さらに著者史上最速で、編集者からのオファーもあったという(本書の「ライナーノーツ」など)。

 一瞬ヒットしてたちまち忘れられてしまったロックバンド〈絶対零度〉のボーカル、デシベル・ジョーンズの前に、身長7フィートでウルトラマリン色のフラミンゴ+チョウチンアンコウの物体が現れる。彼の前だけではない、すべての家庭に同時に現れたのだ。そして〈絶対零度〉が銀河系グランプリの人類代表に選ばれたのだと告げる。銀河のすべての知的生命が参加するそのグランプリで最下位になると、人類は知的水準未達で丸ごと抹消されてしまう。

 異形の宇宙人たちが多数登場する(表紙イラストも良いのだが、ファンがレゴで作ったキャラがなかなかかわいいのでご参考に)。脱力系+皮肉の効いたギャグ満載で、『銀河ヒッチハイク・ガイド』の影響を強く受けたというのもよく理解できる。万能の宇宙人が同時多発的に現れご神託(メッセージ)を下すとか、ダメ人間がありえない人類代表に選ばれてしまうとかのパターンは、SFアニメやコミックでもお馴染みだろう。ある種の定番ネタから物語は成り立っている。

 しかし、本書からはヴァレンテ独特のこだわりが濃厚に立ち昇ってくる。各章の冒頭に(わずかな引用なのだが)USC発表曲の歌詞が掲載され(そのため、たくさんの著作権表示がある)、お気に入りの曲名が章題になっている。そして、登場人物たちの境遇や主張の描写が、物語のバランスを崩すほどやたらと執拗で長い。まだ、いくらでも書けるという表明だろう(続編が今秋には出る)。なんといっても、このノリこそが読みどころなのだ。