
カバーイラスト:加藤直之
カバーデザイン:岩郷重力+W.I
アレステア・レナルズの長編としては17年ぶりの翻訳となる。かつては文庫の製本限界を試すボリューム本(1000ページ)で名を挙げたが、最近ではJ・J・アダムズやジョナサン・ストラーン編のアンソロジイや、橋本輝幸編『2000年代海外SF傑作選』に収められた「ジーマ・ブルー」(2021年の星雲賞海外短編部門)など、中短編のイメージが強かった。昔の長編は現代スペースオペラだったが、近作ではどう変わったのだろう。
19世紀、帆船デメテル号はノルウェーの沿岸を北に向かって航行している。船にはロシア人富豪が雇った探検隊が乗っており、沿岸のどこかにある亀裂を目指しているのだ。そこには未知の建造物があり、発見することで名声ばかりか富が得られるらしい。しかしようやくたどり着いたフィヨルドで思いがけない事態が発生する。何が起こったのか。
雇われたばかりの船医(主人公)、傲慢な富豪の探検隊長、頑健できまじめな警備担当、観測にのめり込む若い地図担当、職務に忠実な船長、博学をひけらかす貴族の言語学者など、登場人物は多いが性格付けを含めてとてもシンプルといえる。多少謎めいているとはいえキャラに関しては複雑な背景はないようだ。しかし、標題が『反転領域』なのだから、お話までもシンプルというわけではない。
北極を舞台にした帆船ものとなると、古くはフランケンシュタインとか、TVドラマにもなったダン・シモンズ『ザ・テラー』とかを思い浮かべる。ただ、ネタバレをしない範囲で書くと、本書は(そういう要素もあるものの)ホラーではない。帯に「超絶展開SF」と書いてあるとおり、途中からSFに回帰する。結果として二転三転どころか四転五転するわけだが、さてこのうちどれが「本物」だったのかと振り返って悩むのも、本書の楽しみ方かもしれない。
- 『銀河北極』評者のレビュー