空木春宵『感応グラン=ギニョル』東京創元社

ブックデザイン:岩郷重力+WONDER WORKZ。
装画:machina
装幀:内海由

 第2回創元SF短編賞(2011)を「繭の見る夢」で受賞した著者による初の短編集である。長期間沈黙した後、活動を再開したのが2019年なので、ここ2年間に書かれた中短編5作品を収めたものだ。創元日本SF叢書の一冊ではあるが、巻末の広告欄では夢野久作、久生十蘭、江戸川乱歩の諸作が並んでいて、本書の立ち位置を推察できる。

 感応グラン=ギニョル(2019)関東大震災後の昭和初期、浅草六区に特異な出演者ばかりを集めた芝居小屋グラン=ギニョルが生まれる。
 地獄を縫い取る(2019)共感を伝えるエンパス技術が一般化した世界、主人公はジェーン・ドゥと呼ばれる少女が登場するアプリを制作している。
 メタモルフォシスの龍(2020)人が蛇や蛙へと変変態していく街で、しだいに蛇に変わっていく姉御と同居する少女は自分のメタモルフォースの遅さに苛立つ。
 徒花物語(2020)ある病を負った少女たちが女学校に集められ寄宿生活を送っていた。先輩に憧れる主人公は、この学校の秘密を知るようになる。
 Rampo Sicks(書下ろし)アサクサ一二〇階がそびえ建つAsakusa Sixで繰り広げられる、美を摘発する探偵団と皓(しろ)蜥蜴との戦い。

 表題作「感応グラン=ギニョル 」は昭和初期(0年代)版『異形の愛』だろう。そこに心の問題を持ち込んだのが本作のポイントだ。「地獄を縫い取る」は近未来を舞台に、世界的な社会問題となっているテーマを、よりディープに掘り下げている。「メタモルフォシスの龍」は、遺伝子工学ものというより耽美なファンタジーの方向に振った作品だ。少女の心の揺れが読みどころになる。「徒花物語」は伴名練も「彼岸花」で手懸けた吉屋信子風の女学生もの。しだいに異形のものの正体が明らかになる過程が面白い。書下ろし作「Rampo Sicks」では、顕著に見られる江戸川乱歩(黒蜥蜴ならぬ皓蜥蜴、少年探偵団など)に対する言及や、昭和初期の作家へのオマージュが随所に出てくる。冒頭で言及した立ち位置が与えられる所以だろう。

 江戸川乱歩は自身のエログロものを卑下していた(本格ものがミステリの王道だと考えていた)ようだが、今日まで大きな影響を残しているのはむしろそういった作品である。本書では、猟奇的退廃的な世界を積極的に取り上げる。ほの暗い舞台の中で、異形のものたちが跳梁する。彼らは肉体が失われても、人の心を残しているために苦悩する。現代に甦る昭和初期風エログロという発想はユニークだろう。