藍内友紀『芥子はミツバチを抱き』KADOKAWA

装画:syo5
装幀・本文デザイン:越阪部ワタル

 著者はササクラ名義で2012年の講談社BOXによる第5回BOX-AIR新人賞(現在は休止中)を受賞してデビュー、2017年には第5回ハヤカワSFコンテストの最終候補となり、翌年『星を墜とすボクに降る、ましろの雨』と改題して出版している。本書は先の『トゥモロー・ネヴァー・ノウズ』と同じく、カクヨムに掲載されたものの単行本化である(原型版は今でも読める)。

 少年はイスタンブールで開催された国際ドローンレースのVR操縦者だった。だが、当地で起こったテロ事件によりレースは中断される。操縦者の関与が疑われる中、孤立した少年は見知らぬ男に誘われ国外に旅立つことになる。目的地はタイ、中国、ミャンマー三国の国境にある少数民族が暮らす村だった。そこでは赤い芥子の花が咲き乱れ、貴重な阿片を産み出しているのだ。

 主人公は小学生だったが、容姿にまつわるいじめを受け不登校となっている。天才的なドローン操縦技術を見込まれ、実務メンバーが子供だけという、異様な組織に所属することになる。そこにはドローンを自在に操る「ミツバチ」と称する特殊能力者たちがいた。舞台は近未来、ドローンは兵器やスポーツなどあらゆる分野に普及している。それらをコントロールする能力は高く買われる。しかしそのためには「杭」が必要だった。ミツバチの少年少女たちは、その代償と引き換えにドローンが操れるのだ。

 ミツバチ組織のリアリティは(どうやって維持できるのかなど)ちょっと気になるものの、いじめや不登校に始まり、子供に対する暴力や強制労働、南北間の格差、麻薬やマフィアなど世界的課題へと展開していくところが読みどころだろう。

 いわゆるグローバルサウス(ミャンマー、ベトナム、インド、スリランカ、ソマリア、南アフリカ、中央アフリカ、トルコ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コロンビア、ボリビア)を巡る旅のお話でもあるため、どこか櫻木みわ『うつくしい繭』と似た雰囲気もある。ただし、本書は実体験を基にしたわけではないようだ。