
装幀:岩郷重力+Y.S
円城塔デビュー「20-1」周年記念作品とあって、これは最初の短編集『Self-Reference ENGINE』(2007)から19周年という意味になる。著者は「初心に帰ってきました」と書いているので、奇想アイデアに満ちた初短編集に回帰したとも読めるし、版元は「著者初の本格ファンタジー」としており、確かに登場する人物(竜やスライム)や設定(魔法世界)から見ればそうなる。ただ、収録作の一部はもともとアンソロジイ『AIとSF』などに書き下ろされた短編だ。はたしてAIについての小説なのか、異世界ファンタジイのバリエーションなのか。
第一部:Shell
土人形と動死体*1:大魔術師は自身の屋敷の下に迷宮を構築する。魔術に代わるマシンの資源を封印するためだった。スライム・コレクター:多様なスライムが棲む沼地に学者がやってくる。埋もれた遺跡調査のためだった。独我地理学*2:抽象的な思索をする者が生まれる村がある。その者は大地について新発見をする。無名再帰書*3:古代の呪文書は翻訳しないと効果が顕われない。それは原文をとどめない意訳であっても構わない。天体顕微鏡:厚さゼロの隙間で重なり合った世界をつなぐ門、しかし別世界は大きさ自体が異なることがある。
第二部:Kernel
竜の命名*3:蜥蜴人が三体殺される。蜥蜴族たちには独特の生態があり、そのことが事態を複雑にする。第六中枢:頁岩の狭間で輝く文字は適切な配置によって魔術となる。その結果「機械」を超えた「中枢」が生み出される。塔と橋:世界が滅びるからと迷宮攻略が唱えられる。そこには無限に続く階段がある。魔王:魔術そのものといえる魔王がいた。魔王にとっては、未来も過去も自在なので現在だけがある。魔の王が見る*4:魔術によって存在した浮遊文明は、最終的に全てを統合制御する魔王を設計する。
第三部:Root
開戦:魔王に招集された竜王と専門家たち、加えて魔王の相棒は迷宮攻略に乗り出す。前哨:大魔術師と竜王は観測兵器について議論する。それは歴史の一貫性を破るものだった。火の鳥:なんでもありの世界でも、魔法を持たぬ魔王の相棒にとってはなにごともない。最後の戦い:あらゆる設定の降る中を竜が飛ぶ。そこに世界観が直撃する。手紙:迷宮の王の大魔術師と魔王の相棒が出会って会話をする。定め通りの展開。
*1:『AIとSF』(2023)、*2:『地球へのSF』(2024)、*3:SFマガジン2026年4月、*4:『AIとSF2』(2024)、他は書下ろし
表紙にも書かれているが「もし君が土人形(ゴーレム)なら、わたしは動死体(ゾンビ)にすぎない」というのが(謎の)キーワード。相変わらずShellやKernelなどのプログラム用語が出てきて、完備化とか閉包(クロージャー)とかの数学用語も唐突に出てくる。ただ、それらは一瞬の煌めきのようなもので、読者を当惑させることはない。AIの話だったり、ご都合主義ファンタジーに対する揶揄であったり、創作論的な部分(人称、設定、世界観、お話の整合性)や哲学的な考察(魂の存在や人の定義)を含むところもある。
著者の近作は過去(和歌とか歴史書、仏教)をベースにしているのだが、SF/ファンタジーを基底に据えたことで「初心に帰った」感はある。そしてまた、最初の短編集は自己参照機械が語った創作だったので、本書もまたAIが生成した小説のように、あるいはAIによる小説批評のように創られている。
- 『電脳の歌』評者のレビュー