ジョナサン・ストラーン編『シリコンバレーのドローン海賊 人新世SF傑作選』東京創元社

Tomorrow`s Parties: Life in the Anthropocene,2022(中原尚哉・他訳)

装画:加藤直之
装幀:岩郷重力+W.I

 MITプレスから出た、人が自然に著しい影響を及ぼした年代を指す「人新世」(正規の地質年代としては未承認)を冠したアンソロジーである。大学の出版部門から出た本らしく、すべての作品は近未来の社会環境問題を扱っており、エンタメ系商業出版物とはやや趣が異なる。原題はギブスンのこの作品や、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのこの名曲に由来するという。

 メグ・エリソン「シリコンバレーのドローン海賊」富裕層に属する少年は、配送ドローンのルートを分析し荷物を奪い取ろうとする。彼にとってはゲームのようなものだった。
 テイド・トンプソン「エグザイル・パークのどん底暮らし」ラゴス沖に浮かぶプラスチックゴミの島、そこに呼び出された主人公は異形の存在と出合う。
 ダリル・グレゴリイ「未来のある日、西部で」山火事が迫るカリフォルニアで、行方不明の患者を捜す医師、食肉を運ぶカウボーイ、スキャンダル映像に色めく投機師たち。
 グレッグ・イーガン「クライシス・アクターズ」気候変動陰謀論を唱える過激派組織から、主人公はサイクロン緊急対策のポランティアへの潜入を指示される。
 サラ・ゲイリー「潮のさすとき」海底牧場で働く主人公は、海中で自由に動ける身体改造に憧れるが、それには多額の費用が必要だった。
 ジャスティナ・ロブソン「お月さまをきみに」パンデミック後の海の浄化を仕事とする主人公は、息子のヴァイキング船に乗る夢を叶えてやろうとする。
 陳楸帆「菌の歌」中国の奥地にある隔絶した村、そこを国中をつなぐネットワークに参加させようとするチームは、常識とは異なる自然法則を知る。
 マルカ・オールダー「〈軍団(レギオン)〉」ノーベル平和賞を受賞した団体=レギオンにネット番組がインタビューするが、司会者の思惑通りに話は進まない。
 サード・Z・フセイン「渡し守」死が貧しさの象徴となった近未来、主人公は誰からも蔑まれる死体回収の仕事に就いている。
 ジェイムズ・ブラッドレー「嵐のあと」海進が進むオーストラリアで祖母と暮らす少女は、長い間会っていない父からメッセージを受ける。
 「資本主義よりも科学──キム・スタンリー・ロビンスンは希望が必須と考えている」ブラッドレーによるインタビュー記事。

 顔ぶれは(英語で書かれた範囲ではあるが)グローバルだ。編者ストラーン、イーガン、ブラッドレーはオーストラリア、テイド・トンプソンは英国在住のナイジェリア作家、陳楸帆は中国、サード・Z・フセインはバングラデシュの作家、それ以外の5人がアメリカ人である。

 流通独占企業や富裕層と貧困層の格差、プラスチック海洋汚染、大規模な森林火災、気候変動に対する陰謀論、テック企業と奴隷的に支配される社員、パンデミック後の社会、電子的なネットと自然環境、逆説的に個人が管理する監視カメラ、アンチエイジングや不死と貧困、海面上昇と気候変動、これらは単なるキーワードではない。極めつけは『未来省』を書いたキム・スタンリー・ロビンスンとの対話である。本書のテーマの意味が明らかになる。

 こういうテーマアンソロジーも、SFプロトタイピングの一種だろう。ここでSFは、編者が述べているように「わたしたちが生きている世界をよりよく理解するために、明日というレンズを通して今日の問題を見ている」のだ。