
Book design:albireo
「紙魚の手帖」による「夏のSF特集 Genesis」第4弾。恒例となる第17回創元SF短編賞の受賞作掲載も行われている。
春鹿未明「鳥なき島」第17回創元SF短編賞受賞作。天国という名の娘への語りかけから始まる。東北のどこか、補陀落島には首輪をはめられた女たちと茶館しかない。そこはHGD社の持ち物で、ときどき巨大な船がお客を連れてやってくる。
天沢時生「長い別れ」亜人たちがひしめく東京、主人公の探偵はある事件をきっかけに人間と友達になる。豚のフリップ・マーロウによるハードボイルドミステリ。
雨露山鳥「数と泥」古代都市バビロンで数を数える女神は、泥人形だった人間の少女にかしずかれる。だが、バビロンの神々は新たな征服者により蔑ろにされつつあった。
高谷再「躍れ生徒会長」生徒会長が突然留学で不在に。新会長選挙では有力な対立候補が現われ、前会長を学習したおもちゃのAIが支援する副会長は敗色が濃厚だった。
宮西建礼「光路」太陽の重力レンズを使えば系外惑星が観測できる。壮大な計画に従い飛行する無人探査機は、ようやくたどり着いた観測点で意外な事実を知る。
マーサ・ウェルズ「信頼関係――それは友情、連帯、仲間、あるいは共感」企業が統治するステーションに潜入するメンバーとAI。しかしステーション内部は混乱状態にあった。《マーダーボット》のスピンオフ作品。
受賞作についての選考委員講評は以下のようなものだった。
高山羽根子「SF的な構築世界と接続するスケール感も、酩酊したような語り口も、読みにくさと紙一重になると選考会では言われていましたが、わたしはかえって読みやすいと感じました。(中略)たとえば、教育を受けずに文字が読めない語り手のことばのリズムや使い方というのは、そうでない娘の天国さんとは決定的に違うでしょうし、多くの女性の命を削って得たお金で自分が生まれ育ち、ここから逃げおおせたという天国さんの気持ちにも、何か重要な葛藤があるはず」、飛浩隆「胡乱な語り口や、幻想とサイエンスの中間での漂い(たとえばマイクロキメリズムをめぐる箇所)がまじりあった総体が新鮮で、最終景にも異様な感動がある。語りの千鳥足めいた混乱はエンタメの観点からは注文をつけたくなるが、あえてこれが選ばれていることもあきらかだ」、長谷敏司「この作品は、途中、「読み手にわかりやすい話」をよいタイミングで挟んでいて、配置の巧みさで、するする読めるようになっていました/エモーショナルなシーンや、印象的なカットが、惜しげもなく登場します。飽きさせないように、展開を早めた、現代的なつくりでした」。
この作品に出てくるHGD社というのは防衛産業らしく、女たちも特殊なバイオ設計をされた人間のようではある。ただ、そういった世界設定や小道具は主題ではない。人間社会の根源に宿る差別やジェンダーによる不合理を、主人公が思い出す/思いつくままに(一貫した論理もイデオロギーも考慮せず)語った内容である。創元SF短編賞の一方の側(ハードSFなどと対極)に振り切った作品といえて、ハヤカワSFコンテストならば犬怪寅日子を思わせる。
このほかに、中村融×天沢時生「英米SF史外観」や石亀航「現代アメリカSF・ファンタジー・ホラー雑誌事情総まくり」、マーサ・ウェルズ×大澤博隆×中原尚哉×石亀航のパネル討論(はるこん2026)採録、などを掲載。これらは、ネット時代に生じたSF情報の「穴」を補う記事といえる。パンフレットだったころの「紙魚の手帖」(およそ40年前)を思わせる時事的/概要的なコラムだろう。今後も続くであろう連作(小川一水、宮沢伊織)や、連載もの(綾瀬まる、久永実木彦)については今回紹介を割愛した。
- 『紙魚の手帖 vol.24 Genesis』評者のレビュー