
2012年の第3回創元SF短編賞(今年で17回を迎える)を受賞して以来14年、理山貞二による待望の初中短編集である。
折り紙衛星の伝説(2014)軌道上から無人機を放とうとする技術者は、子どもの頃に飛ばした紙飛行機の思い出を反芻しながら準備を進める。
〈すべての夢│果てる地で〉(2012)量子コンピュータかつ図書館でもある〈館長〉は、人類からの接触が失われた後、ブラケット記法のブラ宇宙に探査デバイスを設置する。クラシックSF作品へのオマージュに満ちた創元SF短編賞受賞作。
四元数の悪魔(2023)事業に失敗して死のうと思った男が海辺で怪物と出会う。目を合わせたものを順番に襲っていくが、動きがハミルトンの四元数に基づいているのだ。
ディセロス(2019)火星でクーデターによりヒト至上主義政府が樹立される。航行中の宇宙工場は奪取を恐れて旅客部分を分離、コアと保安モジュールだけで火星艦を迎え撃つ。だが、船内の機械人格保持者の保安要員たちにも危機が迫っていた。
キャプテン・セニョール・ビッグマウス(2025)世界中の文化財や歴史的遺産が盗難に遭い、重要容疑者ビッグマウスが捕まる。盗みは太陽系を揺るがす存在に対処するためなのだというが。
黒い星の伝説(書下ろし)祖母が語る子ども向けのお話には隠された真相があるようだった。「ディセロス」のもう一つの物語。
受賞作は当時の選考委員の間で、「エリック」という最後に明らかになる作家の正体と、SFのセルフパロディ的な側面のバランスが議論となった。大森望+飛浩隆が支持し、日下三蔵が反対という立場だった。今読み直すと、前者がはるかに重くなり後者の要素は薄れている。ただそれは、2011年の東日本大震災や小松左京の死を含め(評者の)記憶及び当時のインパクトが摩耗してしまっただけかもしれない(下記リンクが発表時の印象)。
矢野徹「折り紙宇宙船の伝説」(1975)へのオマージュになっている「折り紙衛星の伝説」、ブラケット記法、四元数、「ディセロス」の波動方程式、プレシジョン・ダイス、機能人格保持者、「キャプテン・セニョール・ビッグマウス」の時空壁合誘発体。こういう、いかにもSF的な用語の使い方、分かったようで実は分からない説明(これがないとハードSFとは感じられない)に浸って愉しめる。登場人物たちの会話はシチュエーションを考えれば自然で、何段階かに及ぶ展開のエスカレーションも読者を飽かせないポイントである。
著者は1964年生まれで、大阪大学基礎工学部を卒業している。大学時代はSF研究会に所属、DAICON4のスタッフを務めたこともある。もともとディープなSFファンなのだ。兼業作家であり、本書解説を書いた堀晃直系の(20歳年下ながら)後輩でもある。ただ受賞時点で48歳、メーカーで管理業務などに就いていたら50代はもっとも多忙な時期になる。(たぶん)やくたいもない会議や報告に追われ、作品発表に影響したのだろう。定年を過ぎる頃から(再雇用かフリーなのかはともかく)創作活動に復帰、60代の作品はますます濃厚さを増している。これからの十年に期待したい。
- 『拡張幻想』評者のレビュー