
カバーデザイン:岩郷重力
著者が4年前に出した『孤立宇宙』に続くSF長編第2弾。22世紀末の火星植民地を巡る物語で、前作同様本格的なSF設定となっている。一般読者向けに現代とつながる要素を増やしたようだが、それでもSF要素を存分に取り入れたのは作者のこだわりだろう。
主人公が火星航路の8ヶ月に及ぶコールドスリープから目覚めると、雇用主である小惑星採掘会社はなんと倒産していた。中継地火星で難民扱いの入植者となるか、地球に送り返されるかの二者択一を迫られ、現地でエッセンシャルワークに就くことにする。火星植民地は企業が管理する複数のドーム都市から成る。しかし、ありえないはずの火山の再噴火や地震発生が立て続けに起こり、やがて火星に秘められた大きな謎が明らかになっていく。
物語では、主人公の初等科(小学校)時代の境遇(没落した東京周辺)や現在ともつながる交友関係、企業支配の火星社会が描き出される。とはいえ、何といってもおよそ3分の2のところで登場する大ネタ、クラーク的というより初期ホーガン的な荒唐無稽さ(いわゆるバカSFと呼ばれるもの)が読みどころである。アイデア自体は既存なのでもう少し深掘りすべきだが、著者の読者向けには軽量化した方が受け入れやすいのかも。そこは意見が分かれるところだろう。
文句なしにSF小説といえる。しかし、実績ある熊谷達也の本は文学の棚に並ぶことが多く(たいていの)書店ではSF棚に置かれない。ジャンル読者の目に触れない/注目度が低いのはちょっともったいないと思う。
- 『火星の女王』評者のレビュー