アミタヴ・ゴーシュ『銃ノ島』KADOKAWA

Gun Island,2019(岩堀兼一郎訳)

装丁:國枝達也

 アメリカ在住のインド人作家アミタヴ・ゴーシュによる「インド神話×SF×ポストコロニアル」(帯の惹句)作品。ゴーシュの作品は、2003年にクラーク賞受賞作『カルカッタ染色体』を紹介したことがあり、『シャドウ・ラインズ』やクラファンを使った『飢えた潮』など、代表作を含めた翻訳も出ていてご存じの方も多いだろう。

 ニューヨークで稀覯本のディーラーを営む主人公は、故郷カルカッタ(コルカタ)の実家に毎冬帰ってくる。寒さと孤独を紛らすためだ。そこでポンドゥキ・ショダヴァル(銃商人)という人物の名前を聞く。ベンガル(東インド)の民話や、マングローブの密林に隠れた寺院とも関係するらしい。帰米の時間が迫る中、伯母の頼みもあって主人公はその寺院を訪れる。伯母は慈善団体の有力者なのだ、しかし、そこで思わぬ事件が発生し足止めを食らう。

 ベンガル湾には大河ガンジス川(ガンガー)が流れ込みデルタを形成するが、低湿地が広がりサイクロンによる災害がたびたび発生する。伯母は半世紀前のサイクロン到来時に寺院の存在を知ったのだという。残された詩から、それが英領カルカッタが造られた17世紀より前、ムガル帝国時代のものと分かる。そこから物語は中世ヴェネチアへとつながっていく。

 主人公はインドの民話や大衆詩の研究をする学者でもあったが、それらは研究対象に過ぎずインド大衆の思いに関心はなかった。しかし、イタリア人学者との親交の中で、ヴェネチアとベンガル人(インド東部の人々)との歴史的なつながりを知ることで変わっていく。ベンガルの汚染やヴェネチアの海進などの環境問題、地中海を越えて欧州に押し寄せる難民問題と物語は膨らんでいく。

 何といってもゴーシュはベンガル人の視点を忘れない。それは欧米史観の裏返し(ポストコロニアル)であり、都合の良い労働者として搾取されてきたアジア民の心情を代弁するものでもある。負の側面が強調されがちな難民に対する見方も変わるだろう。物語の最後は、インド民話/神話と環境/難民問題が1つにつながる印象的なシーンとなっている。このあたりがちょっとSF/ファンタジー的だ。