
デザイン:坂野公一(welle design)
テリー・ビッスンは2024年に亡くなっている。それから2年が経ち、本書は16年ぶりの翻訳書だ。《万能中国人ウィルスン・ウー》の中短篇をまとめたもので「1冊にまとめて小さな長編にする」という構想だったようだが、実現したのは日本オリジナルとなる本書が初めてである。シリーズ自体は河出書房新社から出た中村融編訳『ふたりジャネット』(2004)に入っていて初訳ではないのだが、この本はもはや新刊では入手できない。待望の復刊ともいえる。
穴のなかの穴(1994)ニューヨークの片隅にボルボ専門の廃車置場があるらしい。どんな部品でも手に入る一方、簡単にはたどり着けない。しかもそこには穴があって……。
宇宙のはずれ(1996)婚約者の住むアラバマの田舎町で奇妙な現象を目撃する。空き地に棄てられていた車のシートクッションがもとの形へと戻っていくのだ。
教会に遅刻しないように連れていって(1998)ハネムーンでニューヨークに戻ったのだが、何をしても待たされずタイミング良く物事が進んでいく。どうもおかしい。
主人公(視点人物)は弁護士、その友人がウーである。主人公から見てもウー(大柄な中国系アメリカ人)は得体が知れず、神出鬼没でどこにいるのか分からない。それでも頼りになるから、主人公の周辺で起こる奇妙な出来事はすべてウーに相談を持ちかける。この関係はホームズものよりも、宮澤伊織《ときときチャンネル》のコンビに似ている。日常の細々とした差異が、空間、時間、宇宙と壮大なテーマ(昔ながらのSF)に膨らみ、それを万能科学者が一挙に解決する展開なのだ。
ノックスの十戒に「ミステリに中国人(東洋の神秘の象徴=ブラックボックス)を出してはいけない」というのがある。本書はそこを逆手にとり、スーパー科学者=万能中国人に謎を次々と解決させる。何しろ現象を数式で説明できるのだからブラックボックスではない(でしょ?)。数式(インチキ数式)もルディ・ラッカー監修によるものらしく、式自体に意味はないとはいえ、純粋にデタラメでもないのがミソだ。
- 『ふたりジャネット』評者のレビュー