柴田元幸・小島敬太編訳『中国・アメリカ 謎SF』白水社

装幀:緒方修一
装画:きたしまたくや

 英米文学翻訳家の柴田元幸と、中国を拠点に活動するシンガーソングライター小島敬太による(選定から翻訳まで)日本オリジナルのSFアンソロジイである。日本での紹介がないか、もしくは雑誌紹介のみの作家6人(中・米各3人)7作品を収めている。

 ShakeSpace(遥控):マーおばさん(2002)主人公は、図形により人とコミュニケーションする、馬姨(マーイー)と名付けられた試作機をテストするうちに、装置の中身に疑問を感じるようになる。
 ヴァンダナ・シン:曖昧機械(2018)〈概念的機械空間〉の中には3つの不可能機械が存在する。モンゴル人の技術者、トルコ人の数学者、マリの考古学者が発見・発明したものである。
 梁清散:焼肉プラネット(2010)事故で惑星に不時着した乗客は、有害な環境なので宇宙服のヘルメットが外せず飢えに苦しむ。そこには見るからに美味そうな肉に似た生き物たちが生息していた。
 ブリジェット・チャオ・クラーキン:深海巨大症(2019)3人の科学者とスポンサーになった教会の受付係、コーディネータたちは、民間に払い下げられた原子力潜水艦に乗って、深海の底で海の修道士(シーマンク)を探す。
 王諾諾:改良人類(2017)ALSの治療を期待し冷凍睡眠に入った主人公が600年後に目覚める。人々も社会も理想的と思えたものの、彼を目覚めさせるための何らかの理由があるようだった。
 マデリン・キアリン:降下物(2016)戦争が終わってから20年後、世界や人々には戦争の深い傷跡が残されている。500年過去からやってきた主人公は、その時代の自称考古学者と出会うが。
 王諾諾:猫が夜中に集まる理由(2019)真夜中に開かれる猫の集会には、世界を守るための秘密の仕事が隠されている。

 巻末の編訳者対談「〈謎SF〉が照らし出すもの」では、本書収録の作家たちの背景が語られる。都会世代の感性を表現した中国作家は(70、80、90年代生まれ)と各年代にまたがり、一方のアメリカ作家は全員が女性で、インド系物理学者や中国系、考古学者など出自が広い。

 中国の作品はチューリングテストや遺伝子改変、シュレーディンガーの猫などストレートなSFネタで書かれている。アメリカの場合は、マイナーな文芸誌や短編集に載ったオープンエンドで実験的な作品である。未来への希望と絶望、アイデアの明快さの差異など、中・米では結構違いがある。それでも、本書の切り口「現代文学」として交互に読むと、意外な親和性や共鳴し合うものがあって面白い。同じではないけれど、それぞれの現在とシンクロしているのだ。