J・J・アダムズ編『この地獄の片隅に』東京創元社

Armored,2012(中原尚哉訳)

装画:加藤直之
装幀:岩郷重力+W.I

 3月に出た本。『スタートボタンを押して下さい』(2015)と同じ編者による「パワードスーツSF傑作選」である(発表年的には本書の方が古い)。編者は LightspeedNightmare Magazine 等の電子/Web版雑誌の編集を長年手がけ、年3~4冊のペースでアンソロジイの編纂も行うなど、独自の短編市場を切り開く活動を続けているJ・J・アダムズ。

 本書は、傑作選といっても既存作品からのセレクトではなく、すべて書下ろしのオリジナル・アンソロジイになっている。訳者が全23編から12編を選び、読みやすいように掲載順序を入れ替えているのは前作と同じスタイルだ。原著よりコンパクトなことが人気を呼んだのか、7月にはさらなる新刊 Federations,2009 が予定されている。

 ジャック・キャンベル「この地獄の片隅に」有毒な大気に満ちた惑星で、異星人と交戦する機動歩兵の部隊は将軍から直々に無謀な命令を受ける。
 ジュヌヴィエーヴ・ヴァレンタイン「深海採集船コッペリア号」藻類を刈り取る作業船が、水中に沈んでいたデータドライブを偶然見つける。そこに映っていたものとは。
 カリン・ロワチー「ノマド」人とロボットが一体化した融合者は「縞」と呼ばれる縄張りを作り、他の縞との抗争を繰り返していた。
 デヴィッド・バー・カートリー「アーマーの恋の物語」その天才発明家は、決して自身のパワーアーマーを脱がないことで有名だった。
 デイヴィッド・D・レヴァイン「ケリー盗賊団の最期」19世紀のオーストラリア、隠棲した発明家のもとに強盗団の一味が現われ、実現不可能と思われる兵器製造を命じる。
 アレステア・レナルズ「外傷ポッド」戦闘中に負傷し医療ポッドに収容された兵士は、それでも戦闘に関わろうとするが。
 ウェンディ・N・ワグナー&ジャック・ワグナー「密猟者」全域が自然保護区となった地球で、異星の密猟者に対処するアーマーを着たレンジャーたち。
 キャリー・ヴォーン「ドン・キホーテ」スペイン内戦末期、アメリカ人のジャーナリストは、劣勢の共和国軍の開発した恐るべき新兵器を目撃する。
 サイモン・R・グリーン「天国と地獄の星」凶暴な植物が生い茂る惑星にハードスーツを着た要員が送り込まれる。彼らにはそうならざるをえない過去が隠されていた。
 クリスティ・ヤント「所有権の移転」もともとの外骨格の所有者が殺される。殺人者が代わりに使おうとするが、もちろん思い通りには動かない。
 ショーン・ウィリアムズ「N体問題」ワープゲートの終点にある星は異星人達の坩堝だった。そこで主人公はメカスーツをまとう女と出会う。
 ジャック・マクデヴィット「猫のパジャマ」強烈な放射線を放つパルサーを巡る観測ステーションから連絡が途絶える。補給船はその中で唯一の生命反応を見つける。

 日本で単行本が出ている作家は、ジャック・キャンベル、カリン・ロワチー、アレステア・レナルズ、サイモン・グリーン、ショーン・ウィリアムズ、ジャック・マクデヴィットと結構いるが、現行本が残るのはキャンベルくらいだろう。逆に言えば、作者名にこだわらず内容だけで読めるわけだ。

 パワード/アーマードスーツというアイデアがハインライン『宇宙の戦士』由来だとすると、必然的に本書はミリタリものになりそうなものだが、実際にはミリタリーSFは少数派である。キャンベルとレナルズくらいしかない。代わりに知性を持ったアーマー/外骨格が主人公になったり、宇宙服の延長線上やスチームパンクのメカ、アーマーを着ていることが設定の一部になっていたり、あるいは事件解決の手段になったりする。やや強引なものを含めて、機動歩兵ばかりがアーマーネタではないのだ。最後の作品は(古い読者は誰もが思うように)クラークネタ。ただし、オチに使っていないのがミソ。