執筆当時はファンだった著者による、(劉慈欣公認)公式《三体》スピンオフ外伝。オリジナルの第3部『死神永生』(本書巻末にも要約がある)で明らかにされなかったさまざまな謎と、さらにスケールアップした宇宙の秘密が描き出される。
第1部では、デスラインが広がりそこに程心らが飲み込まれたあと、プラネット・ブルーで生きる雲天明が、艾AAに三体文明に囚われた間に自分が行った裏切りを語るところからはじまる。三体人が人類にもたらした欺瞞の背後に自分がいたというのだ。さらに光明の〈霊〉との接触が語られる。第2部では雲天明が〈霊〉からの命を受け、捜索者として次元を縮退させる潜伏者の探索に乗り出す。最初に訪れたのは時の外にある小宇宙#647だった。
もともとファン・フィクションなので、原典に準拠しながらも、そこで明らかにされなかった事件の背景や、その後日譚が書かれている。偶然めいたできごとが実は必然だったと知らされ、登場人物たちの運命が新たに描き直されるわけだ。
しかし、本書の場合、その先のボスキャラ=統治者(マスター)が登場するのが面白い。〈霊〉と聞くと宗教的スピリチュアル系かと思ってしまうが、『幼年期の終わり』とか『スターメイカー』風のSF的な知性の上位概念なのである。
ボスキャラの存在はオリジナルでも匂わされてはいた。本書を読めば(一つの解釈ながら)より明瞭になるだろう。全編を通じて物語というより説明に終始する感はあるものの、読み手を退屈させない手腕は、著者がデビュー前から備える確かな才能をうかがわせる。
とはいえ「コーダ以後」の章はこの物語のスケールに反して、一転、ふつうの2次創作になってしまう。ファン・フィクションの必要条件なのかも知れないが、このあたりは善し悪しだろう。
- 『時間の王』評者のレビュー