スコルジーの「怪獣小説」。本文でも「KAIJU」と書かれているのだから間違いはない。今年のローカス賞の長編部門を受賞したほか、ヒューゴー賞(今年の世界SF大会は成都)の最終候補作にも選ばれている。
博士課程を中途で辞めてまでフードデリバリー業界に就職した主人公は、パンデミックのロックダウンが始まる直前にクビになり、やむを得ず「デリバレーター」(配達員)に就くが、今やそれさえ危うくなっている。しかし、NGOでの仕事のオファーを思いがけず受ける。経歴は問うが経験不問、NGO=KPSは動物を保護する団体だというのだ。基地は極寒グリーンランドから抜けた先、高温多湿のジャングルの中にあった。
冒頭いきなり『スノウ・クラッシュ』が登場、主人公はSFで修士論文を書いていて、向かうKPSの基地はタナカとかホンダと呼ばれている。タナカは田中友幸(東宝「ゴジラ」などのプロデューサー)だし、ホンダは本多猪四郎(同監督)のことらしい。『レッド・スーツ』でもおなじみの、ネタを存分にちりばめたオタク小説でもある。
怪獣が存在する世界については、物理的に生存不可能な生態(大きすぎて自重を維持できないなど)を克服する説明が用意されている。とはいえ、日本の特撮怪獣ものに対するリスペクトはあるにしても、山本弘や小林泰三らの作品が持っていた濃いオマージュ感とはちょっと違う。主人公を中心とした、アメリカンなチームワークのドラマになっているからだ。「ジェラシック・パーク」の恐竜たちと同じく、怪獣は時に暴走しても、あくまで人間のコントロール下、保護下にある(だから保護協会なのだ)。
ということもあり、敵役は宇宙人でも怪人でもない今風の人間である。密かに仕掛けられた罠を巡って、主人公と博士号取得者ばかりのチームが挑む。エンタメドラマのお約束を踏襲し二転三転、読者を飽きさせないのはこれも著者ならではの技があるからだろう。
- 『レッド・スーツ』評者のレビュー