天沢時生『すべての原付の光』早川書房

コラージュ制作:鶴見好弘
デザイン:コードデザインスタジオ

 著者はもともと東浩紀のファンで、大森望を生涯の師と慕う(そこまで表明するのは珍しい)純正ゲンロン系作家である。第2回ゲンロンSF新人賞(2018)を「ラゴス生体都市」で受賞してデビュー、翌年には「サンギータ」で第10回創元SF短編賞を受賞している。以来6年を経て、本書が初の紙版単行本となった。2022年までの中短編だが、2023年から1年余は小説すばるで長編『キックス』を連載(年内には書籍化される模様)、本書の収録作などでその雰囲気を知ることもできるだろう。

 すべての原付の光(2022)滋賀の湖東エリアで時代遅れの暴走族を取材しろと命じられた記者は、指定された巨大なガレージの中で「ガチで半端ない機械」を目撃する。
 ショッピング・エクスプロージョン(2022)2049年、世界規模の資源枯渇の中で、制御不能に陥った超安の大聖堂は自己増殖して世界を覆い尽くそうとしている。
 ドストピア(2021)タオリング興業で滋賀から全国に名を売った原磯組だったが、暴力団根絶法により地球を追われ場末のスペースコロニーへと居場所を移す。
 竜頭(2018)助け合うと誓った幼なじみの友人の家に、深夜ガラクタを置いていく竜頭と呼ぶ何かがいた。数年後、故郷を離れた主人公に救援の時がやってくる。
 ラゴス生体都市(2018)市民生活のすべてが制御された環境完全都市ラゴスでは、性交や子作りすら禁止されている。だが、そこにポルノ映画が反社会運動として復活する。

 独特の用語が目を惹く。入墨機構に装填されるイキリ中学生の原付暴走族、自己増殖するディスカウントストア=超安の大聖堂サンチョ・パンサによる買物災禍、濡れタオルで体を打ち合うタオリングとカタギ警察、微妙な関係だった幼なじみにまとわりつく竜頭、焚像官と転売人の二つの顔を持つ主人公と不法居住者の水上スラム都市マココ。

 「一足飛びの美学」は「描写をじっくり積み上げた直後、次の一文で時間や場面を大胆に飛ばす」もので「加速が進む現代のスピード感にもマッチする」と、著者は述べている(上記のインタビュー記事)。これは自身の文章についての考察だが、設定自体にもそのスタイルが取り入れられている。たとえば入墨機構の先につながる存在、横浜駅SFとなるサンチョ・パンサ(=ドン・キホーテ)、タオリングとヤクザとの関係などに見られる「飛ばし=論理的につながらない飛躍」は、ふつうなら読者が付いてこれず物語の破綻と見做される。そうならないのは、断片的ながらリアルに接地した滋賀ネタだったり、昭和的な不良っぽい格好良さ(Kaguya Planetインタビュー)のドライブ感が勝るからではないか。