早瀬耕『彼女の知らない空』小学館

カバーデザイン:鈴木成一デザイン室
カバー写真:amanaimages (C)YASUSHI TANIKADO/SEBUN PHOTO,R.CREATION/SEBUN PHOTO,LOOP IMAGES,JAPACK/a.collection

 小学館のサブスク雑誌きらら(quilala)に掲載された5編と、SFマガジン掲載の1編+書下ろし1編を加えた短編集である。恋愛小説『未必のマクベス』で注目された著者らしく、どれも男女の少し不思議な関係が描かれている。各作品は緩やかに(ピンポイントで)つながり合っていて、一つの世界とみなすことも可能だ。

 思い過ごしの空(2019/1)化粧品会社の同期入社だった二人だが、本社スタッフの夫には、開発部門に勤務する妻に話せない秘密があった。彼女の知らない空(2019/2)憲法が改正され自衛隊に交戦権が与えられたあと、航空自衛隊に勤務する夫は妻の知らない空を飛ぶ任務に就く。七時のニュース(2019/9)中国大連にある古びたホテルに泊まると、主人公はなぜか高校時代に付き合った彼女の夢を見る。閑話│北上する戦争は勝てない(書下ろし)妻は管理職に昇格したものの、激務から精神的に追い詰められるようになった。困惑する主人公は、ある日見知らぬ老人から奇妙な届けものを託される。東京駅丸の内口、塹壕の中(2019/5)非人間的な開発プロジェクトにあえぐ課長は、夢の中では徴兵され塹壕戦を戦っている。オフィーリアの隠蔽(2020/1-2)化粧品会社の担当者は、広告代理店の女性からイメージキャラのスキャンダルを聞かされる。彼女の時間(2015/10)スペースシャトルの乗員として訓練を受けた主人公は、結局宇宙に行くことは叶わなかったが、事務職として理事の地位まで昇格できた。だが、予想もしない計画の承認を求められる。

 物語の中では、小さな共通点が連鎖していく。化粧品会社の開発物→自衛隊の任務→反政府の考え方と大連→届け物の目的地→夢の中の戦争と老人の示唆するもの→再び化粧品会社と続く。最後のエピソード(SFマガジン掲載作)は一見他と異なっているように見えるが、冒頭作品の一場面を挟んで関連を感じさせる仕掛けとなっている。

 男女関係にも工夫がある。理系(妻)と文系(夫)、最新兵器を操る軍人と妻、政治的な考え方の異なる部長(妻)と課長(夫)、やり手の課長(女)と主人公、青春時代の恋人(の記憶)と現在の主人公の隔たりの大きさ等々、現代を反映したバリエーションが付けられている。働き方改革では、労働時間に制約がなく、(隠された)ハラスメントが横行する中間管理職にしわ寄せが行きがちだが、そういう生々しさも描かれている。

 本書の舞台は現在だ。ほんの少し違うところはあるが、裏腹の世界といえる。明日になれば、そのまま現実化するかもしれない。そこで、夫婦であったり昔の恋人と出会ったりする主人公たちは、とても身近な存在に描かれる。読者の共感を誘う物語といえるだろう。