山田宗樹による書下ろし長編。本格SFのアイデアをより身近な設定で語り直してきた著者だが、今回はインタビュー記事の中で「(地球外知的生命体との出会いについて)できるだけリアルな世界を描きたかった」と述べている。
正確な周期で繰り返される宇宙からの信号が検出される。それは三百万光年の彼方にあるM33星雲からと判明するが、素数が含まれる人工的な信号である以外、どういう情報が送られてきたかが不明だった。謎のままでは、世間の関心はまたたく間に薄れてしまう。その状況に焦りを感じた中学生の主人公は、深い議論ができる一貫校高校部の先輩と話し合う。17年後、サイエンスライターとなった主人公は、日本のグループが信号の内容を解読したとする記者発表に立ち会う。
メシエが分類した100余の星のカタログのうち、約半分が銀河系外星雲である。その中では、M33(NGC598)はアンドロメダ星雲(M31)の近くに見える比較的小型の星雲だが、地球からの絶対的な距離はM31より遠い。なぜこんな遠方からの信号なのかは、物語の中で説明される。本書は第1部と第2部に別れ、第1部では主人公の中学生時代を、第2部では科学者となった先輩らとともに、謎を解き明かそうとする過程が描かれる。一方、その声を直接聞くことができる人々、レセプター(受容体)が現われる。映画「未知との遭遇」で宇宙人の声を聞く人々のようだ。その声は言語的というより、映像的暗示的なものなのである。
宇宙人の信号が地球に届き……というSFは数知れないが、これについては過去に評者がレム『天の声』の解説で書いたので参照していただきたい。一般読者向けに書かれた本書の場合、そういった哲学的、科学的な議論には深入りせず、あらましまでで抑えられている。現在の日本を舞台とし、天文ロマンに憧れた僕(少年)と、声を幻視するもう一人の主人公私(レセプター)の、平行する出会いの物語とした点が面白い。コンタクトものなので必然的にそうなるのだが、別解釈の《三体》と言えるくらい同作と呼応する部分が多いのも注目点だろう。