牧野修『万博聖戦』早川書房

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カバーイラスト:佳嶋
カバーデザイン:早川書房デザイン室

 牧野修の書下ろし長編。本書は、初の連載小説だった『傀儡后』(2002)、SF大賞特別賞『月世界小説』(2015)でも描かれた1970年代が重要なキーとなる作品であり、全体を通して異形の20世紀三部作とでもいえる内容だろう。

 著者はインタビューの中で「どの作品もどこか重なりあって同じ旋律を繰り返しているような気がします。その結果が『万博聖戦』で、集大成というよりは、中央にある私の伝えたい核にだいぶ近づいているような気はします」(SFマガジン2020年12月号)と述べている。

 中学生になったばかりのシトには友人がいなかった。しかし、級友のサドルが唐突に話しかけてきたことをきっかけに、隠された秘密を知ることになる。彼は、オトナ人間とコドモ反乱軍が戦うテレビ漫画の話をするのだが、その戦いは現実にも行われているというのだ。

 物語は1970年に開かれた大阪万博の1年前から始まる。そこはわれわれが知っている(と思っていた)過去とは少し違う世界だ。オトナ人間はインベーダーに憑依された操り人形で、秩序と論理で日本人すべてを支配下に置こうとしている。対するコドモたちは、無責任な自由とでたらめによって対抗する。非力なようでも、彼らには異次元世界に棲む(子供じみた)援軍、少女将校ガウリーらの乗り組む超弩級巡洋艦がいる。その戦いの焦点こそが万博会場にあるのだ。後半舞台は一転し、われわれの見知らぬ2037年に移る。子どもたちはもはや大人で、かつて使えた特殊能力は失われている。しかも、オトナ人間たちは再び侵攻しようと力を蓄えている。

 著者の小説には、だれも見たことのない異形のものが登場する。ホラーではそれがゾンビや電波系怪人の姿をしており、SFではアニメや特撮ドラマのヒーロー、あるいは抽象化された概念的怪物であったりするが、本質的には同じものなのだろう。本書ではオトナ対コドモという対立軸が描かれる。しかし、前半と後半でその正義の意味が反転する。1970年代や大阪万博という繁栄の時代を、50年後に復活させようとする呪術(フィクション)を、虚構(フィクション)の中で問い直す意味もある(前掲インタビュー参照)。また、表現規制派(オトナ)対自由派(コドモ)、規律(オトナ)対放任(コドモ)という現代的な社会問題すら内包する奥深さが面白みを増している。