三島浩司『クレインファクトリー』徳間書店

カバーイラスト:緒賀岳志
カバーデザイン:宮村和生

 三島浩司の書下ろし長編。著者の新作としては『ウルトラマンデュアル2』以来の3年ぶりになる。本書では、巨大ロボットが主人公だった『ダイナミックフィギュア』とは対照的に、小型の人型ロボットが登場する。

 あゆみ地区は全国から伝統工芸の職人が集まってくる特区だ。主人公はある事情で両親から離れ、地区の里親と暮らしている。同じ境遇で暮らす仲間もいた。しかし、ここはもともと此先ファクトリーズと呼ばれる先端工業団地だった。さまざまな工場が建ち並び、ロボットによる無人化が進んでいた。今ではその面影はない。いったい何があったのか。

 まず、著者が得意とする奇想アイデア「分水嶺」が登場する。自然界に生じる完全にランダムな現象をもとにした乱数を物理的乱数という。分水嶺は物理的乱数を攪乱する物体なのだ。疑似乱数ならともかく、こういう概念的なものに影響を与える物質など、ふつうは考えられない。分水嶺はさいころの目の頻度すら左右する。形はさまざま、おもちゃだったり日用品だったりする。ストルガツキーのゾーンにある物質と同様、超自然的存在といえる。

 もう一つがロボットの反乱である。ファクトリーズのロボットが人間に反抗し、治安部隊に向かって破壊活動を企てたのだ。それ以来、ロボットを使う機械化は忌避されることになり、自動化地区は伝統工芸地区になる。なぜロボットは反抗心を持つようになったのか。

 500枚ほどの長編だが、そこに家庭の問題、オーパーツ、AI(ロボット)の知能と心の問題を盛り込むという意欲的な作品だ。著者はかつて、小説にアイデアではなく概念を盛り込みたいと述べたことがある(下記リンク参照)。本書の場合、それはロボットの心がオーパーツを生み出し、家庭問題を救うという3段階の(本来結びつきようのない)連想で作られているのだろう。