我妻俊樹/円城塔/大前粟生/勝山海百合/木下古栗/古谷田奈月/斎藤真理子/西崎憲/乘金顕斗/伴名練/藤野可織/星野智幸/松永美穂/水原涼/宮内悠介/柳原孝敦『kaze no tanbun 移動図書館の子供たち』(柏書房)

ブックデザイン:奥定泰之
カバーイラスト:寺澤智恵子

 《kaze no tanbun》の第2集目。1集目はハードカバーだったのが、今回は新書サイズのソフトカバーに変わった。この方が手に取りやすくて良い。誰が編纂したか本文には記載もなく(西崎憲プロデュース)、著者名が五十音順で帯に並ぶだけの体裁は、惑星と口笛ブックスのアンソロジイなどと同じである。

 古谷田奈月「羽音」人生でただ一度だけ、歌うために生まれてきたのだと信じたことがある。宮内悠介「最後の役」考えごとをしているときなどに、麻雀の役をつぶやく癖がある。我妻俊樹「ダダダ」ヒッチハイクでここまで来れたのは上出来だった。斎藤真理子「あの本のどこかに、大事なことが書いてあったはず」あの本のどこかに、大事なことが書いてあったはず。伴名練「墓師たち」墓師が来ても戸を開けてはならぬと父に教えられたのに、言いつけを破ってしまった。木下古栗「扶養」もう何年も前の話になる。大前粟生「呪い21選──特大荷物スペースつき座席」人のかたちをした穴が町のそこかしこにある。水原涼「小罎」村の灯はまだ遠い。星野智幸「おぼえ屋ふねす続々々々々」子どもたちの名前は「ふねす」。柳原孝敦「高倉の書庫/砂の図書館」島尾ミホは加計呂麻島での少女時代を回想し、「いろいろな旅人たち」が「渡ってきては去って」行ったことを記録している。勝山海百合「チョコラテ・ベルガ」年若い住み込み弟子の黄紅は、師匠が留守でもいつものように夜明けまえに起きた。乘金顕斗「ケンちゃん」私たちがかつて子供たちであった頃(文章が一段落分、切れ目なく続く)斎藤真理子「はんかちをもたずにでんしゃにのる」はんかちをもたずに/でんしゃにのる(詩)藤野可織「人から聞いた白の話3つ」私服の制服化、というのが流行っている。西崎憲「胡椒の舟」東都が水の都であることは誰もが知っている。松永美穂「亡命シミュレーション、もしくは国境を越える子どもたち」大きい荷物はもうチェックインした。円城塔「固体状態」物理学というものはときに不思議な文章を生み出すことがあり、たとえばそれはこういうものだ。

 上記は、各文の冒頭一文だけを引用している。意味があるかどうかはともかく、書き出しを並べるだけでも雰囲気が(なんとなく)分かるだろう。自身の体験に基づく(のかもしれない)エッセイ風ノンフィクション風だったり、ホラー、SF、ファンタジイ風のものだったり、それらが混ざり合っていたり、テーマのない「短文」なので内容はさまざまだ。

 16作家17作品、目次は最後に押し込められており、順不同のようにも読める。1作品の平均15ページ(原稿用紙にして20枚前後)、読み飛ばせばあっという間だが、気分に合わせて少しずつ読むのに適している。全体を通して、子どもたちのお話が多い。子ども時代の記憶、子どもたちの運命。あるいは青年や少女だった若い頃のできごとなどなど。