ジョナサン・ストラーン編『星の海を駆ける』東京創元社

New Adventure in Space Opera,2024(中原尚哉・他訳)

装画:加藤直之
装幀:岩郷重力+W.I

 オーストラリア在住のアンソロジスト、ジョナサン・ストラーンによる新世代スペース・オペラ傑作選である。「新世代」とあるように2012~23年に発表された、比較的新しい作家/作品から選ばれた14編だ。冒頭の序文に編者が考えるスペース・オペラの定義や歴史的変遷、何が「ニュー」なのかが簡潔に述べられているので参考になるだろう。

 トバイアス・S・バッケル「禅と宇宙船修理技術」(2017)*艦隊戦で勝利したあと、CEOと称する敵に助けを求められる。ロボットである私は従わざるを得ない。
 ユーン・ハ・リー「課外活動」(2017)名高い暗殺者/工作員の主人公は、行方不明のスパイ船調査のため身分を偽って潜入する。
 アーカディ・マーティーン「あなたが王だと思っていたすべての色」(2016)保育所で育った友は、女王のクローンだった。そうである以上、過酷な運命が待っている。
 アレステア・レナルズ「ベラドンナの夜」(2017)二十万年の銀河周回を祝う千夜祭、そこで主人公はある人物からペラドンナの花を贈られる。
 T・キングフィッシャー「金属は暗闇の血のごとく」(2020)*小惑星をむさぼり食っていた巨大な機械ブラザーとシスターは、あるとき何ものかに拉致されてしまう。
 チャーリー・ジェーン・アンダーズ「時空の一時的困惑」(2017)*巨大な不定形の存在〈お広様〉を崇拝するカルトから、首尾よく獲物を手に入れた2人組だったが。
 アリエット・ド・ボダール「包嚢」(2012)全身を包む包嚢があれば、文化的な差異さえも吸収できる。主人公は、旧宗主国から来る大物の接客を命じられる。
 セス・ディキンソン「モリガン、光へと落ちる」(2014)太陽系内の人類と、系外人類との間で凄惨な戦争が起こる。主人公の戦闘艦は太陽に向かって落ちつつあった。
 ラヴィ・ティドハー「背教者たち」(2017)異端の教えを説く背教者を抹殺すべく送られた裁定人だったが、いまは聖宮殿の地下に吊るされ尋問を受けている。
 ベッキー・チェンバーズ「善き異端者」(2019)ウィルスに感染することで卓越した思考能力が得られる世界、しかし主人公の場合はちょっと違っていた。
 アーニャ・ジョアンナ・デニーロ「クイーンズスロートへの旅路」(2020)崩壊した帝国から逃れ、月で暮らしていた老女を「清浄軍」の少年たちが襲う。
 アン・レッキー「審判」(2019)氷原に隠棲している主人公の元に、仕えていた支配者からの指令が届く。反乱の火種を潰せというのだが。
 サム・J・ミラー「惑星執着者」(2023)主人公はセックス・ワーカー、ワームホールでつながり合う宇宙で生きるが、故郷はゲートが壊され帰還不能になっていた。
 カリン・ティドベック「スキーズブラズニルの最後の旅」(2019)生体宇宙船は外殻の中に生き物が入っている。主人公は修理工だが、船は住み替えの時期に入っていた。
  *:既訳あり(新訳は除く)

 スペース・オペラといっても、本書の定義に当てはめると、スケールが宇宙大で冒険譚であれば良いのだから、幅広い宇宙SF全体(ハードSFはその度合いによるだろう)が包含される。本書では、非欧米(反植民地主義)的な銀河帝国の扱いなど、特にエキゾチックさが重視されているようだ。長編の一部(のような印象)に終わってしまう作品もあるが、おしら様みたいな〈お広様〉とか訳語は工夫されていて、全体的に異界感がよく顕われている。中ではユダヤ教の用語を駆使した「背教者たち」に独特の雰囲気がある。