ジョディ・テイラー『歴史は不運の繰り返し』早川書房

Just One Damned Thing After Another,2013(田辺千幸訳)

カバーイラスト:朝倉めぐみ
カバーデザイン:早川書房デザイン室

 著者は英国生まれ、20年間に及ぶ図書館員時代の経験を生かして本書を執筆、私家版電子書籍で出版すると記録的に売れ、後にプロ出版された紙版もベストセラーという、恵まれたデビュー作品になった。本書を含む《セント・メアリー歴史学研究所報告》は、短編を含めて30作近く書き継がれている人気シリーズである。英国アマゾンではベストセラーの常連だ。

 大学を卒業し歴史学の博士号を取得していた主人公だが、ある日恩師から、大学に併設された歴史学研究所に勤めてみないかという誘いを受ける。給料はともかく、仕事内容に不満はないはずだという。しかし、その門をくぐった先で目にしたものは、主人公の想像をはるかに超える、危険かつエキサイティングなタイムトラベルのプロジェクトだった。

 任務に就くための資格要件は厳しく、まず過酷な自然や社会環境に耐えるための肉体訓練が待っている。理論学習を含めて試験に合格できなければ、即座に馘首となる。合格して正規の歴史家となっても、派遣先から生還できるとは限らないらしい。定員には、なぜか常に欠員があるからだ。堅物でチームワークが苦手の主人公だが、ここではペアを組んだ同僚と仕事をせざるを得ない。

 大学の研究所がタイムマシンを擁して歴史研究を行うという設定では、古くはマイクル・クライトンの映画化もされた『タイムライン』(1999)などがあり、コニー・ウィリス《オックスフォード大学史学部》は、ずばり本書と同じテーマ設定といえる。頭は良いが要領が悪く人の機微が分からない主人公や、多重に繰り返されるすれ違いドラマなどよく似た雰囲気だ。

 しかし、それも冒頭のみで、後半に移ると研究所設立にかかわる秘密や陰謀、もどかしいロマンス(本書はロマンス小説でもある)や、登場人物が次々と殺される一難去ってまた一難(不運の繰り返し)的な展開が楽しめる。中世から第2次世界大戦までの時代考証に凝ったウィリスと比べると、本書は恐竜時代をメインにするなど歴史物としての視点はライトなようだ。