大森望編『NOVA 2023年夏号』河出書房新社

ロゴ・表紙デザイン:粟津潔

 前号から2年ぶりとなる、オリジナル・アンソロジイ《NOVA》の最新号。今回は女性作家13人によるボリューミー(540頁)な1冊となった。雑誌の特集などを除けば、女性のみのSFアンソロジイとして日本史上初!を謳う。時流を抜きにすると、単にSF風/ファンタジイ風アンソロジイならもっと前から可能だったと思うが、著者の出自を含めSF周辺だけで固められるのは、今日だからこそなのだろう。

 池澤春菜「あるいは脂肪でいっぱいの宇宙」激太りを改めるべく励むのだが、あらゆる方法を試しても痩せない。騒動はSNS上でブレイクし、某研究所から調査依頼までくる。
 高山羽根子「セミの鳴く五月の部屋」五月にセミは鳴くか。謎の合言葉を告げる見知らぬ人々に辟易した主人公は、その意味を訪問者に問い詰める。
 芦沢央「ゲーマーのGlitch」 RTAゲームの世界大会が実況される。人類の限界を超えた男と元絶対王者の戦いなのだ。バグ技を使うなど究極の戦いは果てしなく続く。
 最果タヒ「さっき、誰かがぼくにさようならと言った」琥珀に愛していると告げると結晶が美しくなる。評判の琥珀師のもとにインタビュー取材用のAIが送られてくる。
 揚羽はな「シルエ」小さな娘が事故で脳死状態になったあと、諦めきれない夫とアンドロイドのシルエに耽溺する妻との間に深い溝ができる。
 吉羽善「犬魂の箱」使機神と呼ばれる犬張子型のロボットは子供を守る機能を有している。江戸時代のような設定の中で、ロボットは子供のために活動する。
 斧田小夜「デュ先生なら右心房にいる」宇宙開発の現場では、使役や食用にもなることから宇宙ロバが重宝されている。デュ先生はそんなロバの専門医だった。
 勝山海百合「ビスケット・エフェクト」スーパーカブで海を目指した高校生は、海岸で鹿のような生き物と出会う。そこで持っていたビスケットを差し出してみる。
 溝渕久美子「プレーリードッグタウンの奇跡」北アリゾナの平原にすむプレーリードッグたちの近くに、飛んでいる何かが下りてきてタウンの群れとコミュニケーションする。
 新川帆立「刑事第一審訴訟事件記録玲和五年(わ)第四二七号」死刑執行の傍聴ができるようになる。そこで死刑囚の母親と被害者の妹が同席し別の事件を引き起こす。
 菅浩江「異世界転生してみたら」オタクの主人公が異世界転生し、オタク知識を生かして好き勝手に生きようとするものの社会的制約が邪魔になる。そこで思いついたのが。
 斜線堂有紀「ヒュブリスの船」瀬戸内をクルーズする観光船で殺人事件が起こる。犯人は明らかになるが、乗客全員が記憶を残したままのタイムループに捕えられる。
 藍銅ツバメ「ぬっぺっぽうに愛をこめて」少女はレトロな駄菓子屋で、薬売りの男から父親の病気に効くという触れ込みで奇妙な生き物を渡される。

 揚羽はなの子供(そっくりのロボット)、吉羽善の犬(のようなロボット)、斧田小夜のロバ(が改良された宇宙ロバ)、勝山海百合の鹿(のような異星人)、溝渕久美子のプレーリードッグ、藍銅ツバメのぬっぺっぽう(のような外観の生き物)と、生物(ロボット、妖怪?)を描いたSFが読み比べられる。処理方法や視点に各著者の特徴が出ていて面白い。

 芦沢央のガチなゲーム実況、新川帆立のガチな供述調書、斜線堂有紀は登場人物の残酷な末路が印象に残る(記憶が累積されるタイムループ作品はよくあるが、ここまで感情的な閉塞感に溢れるものはなかった)。一方、最果タヒによるAIとの独り言のような会話、謎のゲームに関わるようで突き放す高山羽根子、真砂の数ほどある異世界転生ものにトドメを刺す菅浩江、この3人は年齢差がそれぞれ10年ずつありながら手練れの巧みさを感じる。

 池澤春菜の作品は、もしかすると40年ぶりによみがえる『処女少女マンガ家の念力』(大原まり子)なのではないかと思わせる。この非日常的なリアリティはいかにも編者の好みっぽく、冒頭に置かれただけのことはある。