
カバー図版:Jana Šouflová
装幀:中垣信夫
チェコで書かれたSFを紹介するアンソロジイの第3作目、この21世紀バージョンで最後になるようだ。本国でも出ていない(チェコ+日本の編者による)オリジナルの作品集なので、希少性があるだろう。チェコというとミハル・アイヴィス『もうひとつの街』などを思い浮かべるが、そういう幻想小説風味も加わった、ひと味違うSFのテイストが愉しめる。
パヴェル・フリッツ「アーサー・ブルックスを愛したもの」(2016)要員が1人しかいない宇宙灯台にエイリアンが現われる。そいつには他者という概念がないようだった。
ヴィルマ・カドレチコヴァー「ラマリス炎上」(2023)主人公は異星の古代文明にタイムトラベルする旅行会社の魔道士だった。そこにライバルの大手企業が参入してくる。
ヤン・ポラーチェク「英雄の道」(2007)1939年から戦争が始まって8年が経った。勝利は近いらしいが、兵士の入隊年齢は引き下げられ不穏さが増していた。
ヤン・フラーフカ&ヤナ・ヴィビーラロヴァー「人生は一度きり」(2009)1人の少女を追う謎の男たち、少女には彼らが追い求める特別な力があった。
ペトル・スタンチーク「中空の七角形」(2023)人生に絶望した男は、偶然を経て煙突掃除人に弟子入りする。彼らはプラハ最古の地下世界を知っていた。
ユリエ・ノヴァーコヴァー「インスタンス──インテリジェント検索エンジンのケーススタディ」(2019)検索AIが、ユーザーの要求の裏で口にする愚痴や悪口の数々。
マルチン・ギラル「融点」(2018)地球が寒冷化している。太陽黒点の異常が原因と考えられた。ソ連の宇宙船がその異変調査のために送り込まれる。
コモディティ化したテーマとなる、ファーストコンタクト、タイムトラベル、改変歴史もの(ナチスドイツが敗戦せず、ソ連が崩壊しなかった世界)が並び、最後の「融点」などはハードSF寄りの作品だ。それでも魔道士や吸血鬼、古代のプラハ等など幻想/ホラー色がその上に重なり合う。小松左京「地には平和を」を思わせる「英雄の道」では、SF要素より歴史的なリアルさの方が重くのしかかる(ドイツによる併合の時代が背景)。そういう独自のブレンドがチェコらしさとなるのだろう。
- 『チェコSF短編小説集』評者のレビュー