
カバー・本文デザイン:川谷康久(川谷デザイン)
5月に出た本。『青の数学』などで知られる著者が、新潮文庫nexに書き下した4つのエピソードから成る連作長編である。地球外生命体OTとの接触後に〈渦〉が不規則に出現し、タイム・ループを含め「何が起こっても不思議はない」という世界になる。整時士は、現象の原因(人に起因する)を解明/解消する役割を担っている。
ロンゲスト・スプリング:町の住民300人が消失する。ループを伴う〈渦〉に巻き込まれたと考えられる。そこにOTの力を借りて潜入した主人公は意外な原因を知る。
フォーゲッタブル・レインギア:小学生が〈渦〉になっている。噂を確かめ現象は明らかだったものの、その要因は別のところにあるようだった。
ノッキン・オン・サマーズ・ドア:中学生の少女が静止空間に迷い込む。行き先が分からないと〈渦〉を解消することができない。主人公たちは空間に入り追跡を開始する。
ノット・ファウンド・イン・モーニングパーク:夏の公園、次の仕事の待ち合わせの間に、勤務している塾のこと、子どもの成長と将来、同僚、消えた妻のことが思い浮かぶ。
主人公は小宇辺(こうべ)外港機関に所属する業務委託契約の(非正規)整時士。外港機関は〈渦〉を管轄する公的な機関で整時士を手配する。秘密組織とかではなく、まるでケアマネージャの派遣元のように描かれる。小宇辺は神戸のようだが、近在に鎌倉(らしきところ)があったりもする。阪神淡路大震災を思わせるOTとの最初の接触〈大時震〉は、多くの行方不明者を産み出す。主人公の妻もその一人だ。残された主人公は3才児と暮らすのだが、その息子にはOTが同居していて意識が不定期に切り替わる。
一日をループする時間、静止する時間、自己ループとさまざまな時間が登場する。そこでの物理現象に気になる点はあるものの、本書は現象よりも〈渦〉の中心にいる人物(幼児、児童、中学生)に焦点を当てている。なぜループなのか、なぜ静止するかの要因は、学校や家族の問題とつながっている。主人公の悩みや後悔も妻や息子との接し方に由来する。物語の中で〈渦〉はそれらを際立たせ、強調する装置として機能しているのだ。
- 『突変』評者のレビュー