津原泰水『烏と孔雀』河出書房新社

装画:長尾紘子
装幀:岡本洋平(岡本デザイン室)

 津原泰水は2022年に逝去するが、本書はその直前まで話が進んでいたという。『綺譚集』(2004)『11 eleven』(2011)に続く第3短編集になる。《NOVA》などのアンソロジイや同人誌といった媒体で発表され、短編集未収録だった作品(未発表作1編を含む)を集めた内容となる。

 幻獣たち(1998)どこかの教団に取り込まれた主人公の一人語りから、やがて明らかになるもの。I, Amabie(2021)アマビエのコスプレが評判になったユーチューバーの主人公は、TV出演で憑かれたように持論を開陳する。北三鷹市の開ヶ町(2016)あまり知られていない北三鷹市開ヶ町の印象(北見隆作品集に寄せたもの)。エリス、聞えるか?(2015)ベルリン時代に知遇を得た作曲家の家に、森林太郎は帰国後訪問し、蒼ざめた本人と対面する。クニヨシ・カネコのキャビネット(2015)私は金子國義のアトリエにあるキャビネットの飾り棚に立ち尽くす。エルビスさんの帽子(2019)広島胡町のビルの谷間に胡子神社がある。そこに現われるエルビスさんは幅広の帽子を被っていた。指輪物語 予告篇(2002)ホビットのサムを主人公に、庄のその後を描いた短い物語。SARS-CoV-2の物語(2020)Covid-19の本質をメタファや物語に表象するエッセイ。恋するマスク警察(2021)通学電車にいつも乗ってくるエゴンさんのマスクには、小さいが何かしら深みのある絵が描かれていた。ボッサ・ノヴァ2020(2020)コロナ禍ではボッサ・ノヴァのような独演が配信に向く。だが大学の対面講義にも別の意味があった。戯曲 中空のぶどう(2019)田舎町の高層マンション最上階の空中庭園で、マンドリンをつま弾く正体不明の老人が、やってくる3人とつぎつぎ会話をする。おなかがいたいアナグマ (未発表作)ダックスフントがみたことのないけものをはっけん。タヌキにきくとアナグマだという。カタル、ハナル、キユ(2021)ハナルの伝統音楽には謎めいた音階がある。言語学者は、邑に住み日本人を自称する初老の男から話を聞く。リサイクル(亀井省吾の場合)(2022)プロにはなれないまま中年となった主人公が、忌野清志郎を気取って弾いていた高価なギターが壊れる。その後に思いがけない訪問者があった。

 2020年から22年までというコロナ期の作品(14作中6編)の中では、「I, Amabie」「恋するマスク警察」の、閉塞感とそこで生きる主人公たちの行動が、あの時期を象徴していて面白い。他でも、架空の音楽/言語学を描くSF「カタル、ハナル、キユ」、狂気をはらむ森鴎外ホラー「エリス、聞こえるか?」、孤独な中年男の鬱屈とちょっとした希望「リサイクル(亀井省吾の場合)」が印象に残る。