SFチェックリスト(1982年〜1986年9月)
1979年から81年
1979年
1980年
1981年
(2〜6月)
1981年
(7〜12月)

1982年から86年

1982年
1983年
1984年
1985年
1986年
(1〜9月)

1986年から87年
1986年
(10〜12月)
1987年

1988年から92年
1988年
1989年
1990年
1991年
1992年

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 1981年7月にSF宝石からSFアドベンチャーに移って2年目、1982年に書評のスタイルが変わる。
 この年から、これまでの小さな書評欄だけでなく見開き2ページの注目作欄が登場、これまでになく内容が充実した。そのかわり、月々の書評点数は減少し、従来の網羅的な書評から、厳選の方向へと方針が変わったのである。ただし、この書評点数は年々拡大し、評者の拡大を孕んでいく。

neoabull2.gif (869 バイト)1982年1月から1986年9月までの担当者:
neoabull2.gif (869 バイト)伊藤典夫+鏡明+安田均+伊藤昭(1986/8まで)+大野万紀
neoabull2.gif (869 バイト)野村芳夫+岡本俊弥+福本直美(1984/10から)

1982年のベスト

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(SFアドベンチャー1983年4月号)

総括執筆:伊藤典夫(創作)+安田均(翻訳)

bullet鈴木いづみ 『恋のサイケデリック』(早川書房)
bullet小松左京 『さよならジュピター』(サンケイ出版)
bullet石原藤夫 『宇宙船オロモルフ号の冒険』(早川書房)
bulletA&B・ストルガツキー 『蟻塚の中のかぶと虫』(早川書房)
bulletコードウェイナー・スミス 『鼠と竜のゲーム』(早川書房)
bulletフィリップ・K・ディック 『ヴァリス』(サンリオ)
bullet山田正紀 『最後の敵』(徳間書店)
bulletミヒャエル・エンデ 『はてしない物語』(岩波書店)
bulletスタニスラフ・レム 『天の声』(サンリオ)
bulletロバート・L・フォワード 『竜の卵』(早川書房)
bulletジョン・ヴァーリイ 『ティーターン』(東京創元社)
bullet笠井潔 『機械じかけの夢』(講談社)
bullet山尾悠子 『夢の棲む街/遠近法』(三一書房)
bulletマイクル・ビショップ 『焔の眼』(早川書房)
bulletスティーヴン・キング 『ファイアスターター』(新潮社)
bullet村上春樹 『羊をめぐる冒険』(新潮社)
bulletグレゴリイ・ベンフォード 『タイムスケープ』(早川書房)
bullet田中芳樹 『銀河英雄伝説』(徳間書店)
bulletダグラス・アダムス 『銀河ヒッチハイクガイド』(新潮社)
岡本による総括(同誌掲載分)

 特に気がついたのは、ハードSFとディックの年だったことだ。
 主に年の前半に集中したハードSFは、それこそ錚々たる顔ぶれで、例えばこんな調子で表現できる。

 ・巨大プロジェクトSF 『さよならジュピター』、
 ・応用数学SF 『宇宙船オロモルフ号の冒険』、
 ・高重力理論SF 『竜の卵』、
 ・宇宙哲学SF 『天の声』、などなど。

 特に上記の4作が優れている。評者のキャッチフレーズはでたらめだけれど、これだけのハードSFが出たということだ。質的に凌げる作品は、当面出てこないだろう。その上内容は四種四様、プロットの立て方一つにしても、重複する部分がない。――とにかく、昨年4月から6月にかけて、4作が出たことで、優に1年分の重みがあった。ハード傍系と書くと語弊があるが、本格SFの『タイムスケープ』や『最後の敵』も、この流れに入るだろう。

 もう1つ、ディックの年といえるのは、問題作の『ヴァリス』や『聖なる侵入』、映画『ブレードランナー』があっただけではなく(もちろんそれもあるのだが)、各専門紙で特集された多くのディック特集が、思いのほか充実していたからだ。ファンジンにも、面白い特集が載った。長い間、内容のある論争らしい論争が絶えていたSF界に、たとえ一部にでも有意義な意見のぶつかり合いが生まれたのだ。ディックの死もムダではなかった――とまで言うといいすぎになるか。

1982年書評作品全リスト
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1983年のベスト

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(SFアドベンチャー1984年4月号)

総括執筆: 鏡明(創作)+大野万紀(翻訳)

bullet神林長平 『あなたの魂に安らぎあれ』(早川書房)
bulletA&B・ストルガツキー 『ストーカー』(早川書房)
bulletダグラス・アダムス 『宇宙の果てのレストラン』(新潮社)
bulletジェイムズ・P・ホーガン 『未来からのホットライン』(東京創元社)
bulletバリントン・ベイリー 『カエアンの聖衣』(早川書房)
bullet梶尾真治 『おもいでエマノン』(徳間書店)
bulletクリストファー・プリースト 『逆転世界』(サンリオ)
bulletイアン・ワトスン 『マーシャン・インカ』(サンリオ)
bulletウィリアム・ゴールディング/ジョン・ウィンダム/マーヴィン・ピーク 『ありえざる伝説』(早川書房)
bulletヴォンダ・マッキンタイア 『夢の蛇』(サンリオ)
bulletマイクル・ムアコック『エレコーゼ・サーガ』(永遠のチャンピオン/黒曜石の中の不死鳥)(早川書房)
bullet中島梓 『道化師と神』(早川書房)
bulletロバート・ストールマン 『野獣の書』(孤児/虜囚/野獣)(早川書房)
bullet

アイザック・アシモフ 『アシモフ自伝T』(早川書房)

岡本による総括(同誌掲載分)

 まず、海外では話題作がいくつか翻訳されている。特にイギリスの3作家、ベイリー『カエアンの聖衣』、ワトスン『マーシャン・インカ』、プリースト『逆転世界』らが代表的。いずれもイギリスの新鋭(というより、もう第一線の作家)たちの、本領を窺うことができる作品だった。しかし、どうも一致した評価は得られていない。一長一短、批判する人もあれば絶賛する人もいる。小説の構造から観念まで、一貫した完成度を保つに至らないからだろう。中では、『カエアン――』がまずまず安定した作品となっている(その分、破壊力に欠けるという見方もある)。個人的には、前述した順番に評価したい。

 また、翻訳の待たれていた『危険なヴィジョン』(の3分の1)や、『ベストSF1』など伝説的な作品集が出た。十五、六年前のアンソロジイだが、幸いなことに、どちらもあまり古びてはいない。もっとも、翻訳の“幻”は早く解消してほしいですね。

 国内では、神林長平の活躍が際立つ。一昨年の短編集以降、昨年は1短編集3長編を出版。新人の中では、最もパワフルな動きを示している。かんべむさし以来の言語感覚と、ディックともやや異なる、得体の知れない不気味さ(そしてユーモア)が特徴か。

 他でも、1001篇目を飾り、なお衰えを見せない星新一、さらに人気を増しつつある新井素子ら、日本では対照的な新旧両作家が注目株だった。

1983年書評作品全リスト
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1984年のベスト

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(SFアドベンチャー1985年4月号)

総括執筆: 伊藤昭(創作)+岡本俊弥(翻訳)

bullet川又千秋 『幻視狩り』(中央公論社)
bullet神林長平 『戦闘妖精・雪風』(早川書房)
bulletD・G・コンプトン 『人生ゲーム』(サンリオ)
bullet筒井康隆 『虚航船団』(新潮社)
bulletカート・ヴォネガット・ジュニア 『チャンピオンたちの朝食』(早川書房)
bullet山田正紀 『夢と闇の果て』(集英社)
bulletJ・R・R・マーチン 『サンドキングズ』(早川書房)
bulletバリントン・J・ベイリー 『禅<ゼン・ガン>銃』(早川書房)
bulletマイクル・ビショップ 『樹海伝説』(早川書房)
bulletソムトウ・スチャリトクル 『スターシップと俳句』(早川書房)
bullet水見綾 『マインド・イーター』(早川書房)
bullet山田正紀 『神獣聖戦TU』(徳間書店)
岡本による総括(同誌掲載分)

 翻訳にも流行がある。けれど、創作とペースが異なり、過去何年かの作品が一度に出版されることもある。例えば、ディック(1982年)、ホーガン(1983年)などである。昨年も、それに近い動きはあったが、目立つものは少なく、ベストには、余り反映されていない。ベストに占める海外作品は、昨年の11編から比べると、約半分に減ってしまった。とはいえ、一くくりにできない、多彩さが出たラインアップではある。

 ここからは、ある意味での、七〇年代と、八〇年代との対比が可能だ。 『チャンピオンたちの朝食』(1973)、『樹海伝説』(1979、原型は73年) は、未完成さと重さに象徴される、七〇年代の作品。一方、八〇年代側は、人気の高まってきたベイリー『禅銃』(1983)、初紹介のイギリス作家コンプトン 『人生ゲーム』(1980)、タイ人スチャリトクルの『スターシップと俳句』(1981)、マーチン『サンドキングス』(1981)など、多様さと軽さを併せ持ち、十年前の作品とは、対称的な位置関係にある。

 ウォネガットの年だった――本当なら、そう言ってもおかしくないはずなのである。並み居る大家とともに来日し、翻訳も『ウォネガット、大いに語る』、『パームサンデー』、『デッドアイ・デイック』等、大量に紹介されている。しかし、日本での講演は、それほどの感慨も呼ばず、近作も過去の出世作から遥かに遠い・・印象が希薄化している。ようやく紹介された 『チャンピオンたちの朝食』 は、そんな“現在”のウォネガットとは、異質な肌合いを持つ作品だ。七〇年代前半 『スローターハウス5』 の次に書かれた、妙にどろどろとした長編である。本書が、ウォネガットの評価を決定付けた。今読んでも (たとえ同時代性は薄れても)、 言葉の切れ味は衰えていない。現在の作品の、単純で短い言葉は、この“過去”とそう変わらない。違いは、込められた感性の重みだろうか。直後に、『スラップスティック 』が続くけれど、もうそこに至ると、本書の味は消え失せている。

 もうひとつの“伝説”『樹海伝説』は、73年に原型となる中編が書かれ、79年に長編化されている。異星のヒューマノイドの「死と選定の儀式」と、観察する一人の学者――何が、異星人を駆り立てるのか、森林の奥に潜むパゴダには、何が隠されているのか。重なり合う謎は、最初の中編では、一つも解決されていない。小説ではなく、人類学だという評価も産んだ。それがなぜか、長編で総て説き明かされてしまう。緊張感をはらむ中編は、ニューウェーヴの影響を受けていると見えるだろうし、解決編は、SFへのこだわりだとも思える。執拗な謎へののめり込み、一転して解決への拘泥――その点で、七〇年代の影を強く遺した作品である。 (同様のテーマで書かれた『焔の眼』(1980)が、過去に翻訳されている。同一作家同一テーマでも、これだけ雰囲気が異なる。読んでいただければ、明らかだろう)。

 余談になるが、同時代で、NWを通過してきた作品を見るなら、短編集 『ザ・ベスト・フロム・オービット』 (上)が、最適である。六〇年代後半の、アメリカンNW (と、単純に分類したら、やや語弊があるか) の成果が集められている。
 ポストNWの代表格、マーチンは、以前に『翼人の掟』(リサ・タトルとの合作)が紹介されているけれど、短編集である本書 『サンドキングズ』 のほうが、完成度は高く、緻密にして描写力に優れる。中短編における旨さでは、ビショップと直接比較できそうなのだが、しかし、重々しさはない。テーマの重さ、文体の重厚さ――もちろん、どこと一概に言い切れはしない。ただ、マーチンには、垢抜けた軽快さがあって、その差は、はっきり出ている。少なくとも、テーマに対する、あの確執はない。

 確執はなくても、ガジェットの豊富さは、むしろ現代である。ワイド・スクリーン・バロック(WSB)という用語が、一時流行った。これは、スケールの大きさと、アイデアの多様さを象徴するタームなのだが (提唱者である、オールディス自身の言葉を借りるなら、「絢爛華麗な風景と、劇的場面と、可能性からの飛躍に満ちた、自由奔放な宇宙冒険物」) 両者を満たす作品は少なく、まして作家となると、なお少数になる。翻訳が出るたびに、この形容がなされるベイリーは、特異な例に入るのだろう。『禅(ゼン・ガン)銃』は、定義の上から、十分WSBに相当する。もっとも、小説として見た場合、必ずしもベストと言いがたいのが難点だ。WSBは『虎よ、虎よ!』の形容に用いられた事でも分かるように、物語面での不完全さを、“奔放さ”で補うものである。不満を残したのは、その面での力不足とも考えられる。しかし、SF最大の武器 (八方破れのアイデアの洪水) を、作風として保ち続ける姿勢は評価できる。

 別の意味で、現代SF傾向を強めたのが『スターシップと俳句』だ。“日本”は、これまでも(SFに限らず)、誤解の上に成り立つ、エキゾチズムの典型とされてきた。( 筒井康隆「色眼鏡のラプソディ」 参照)。それは、日本人にとって、大半が何の意味もなさないものだった。しかし、本書では、異次元の日本が、一つのSF的ガジェットにまで高められている。ほんの少し視点を変えるだけで、現実にあるものが虚構と化す面白さは、小説的技法が成熟した現代のほうが、かえって増しているのかもしれない 。 スチャリトクル(アメリカに住む、王家の血を引くタイ人で、日本に詳しく、英語で小説を書く)という、ユニークな作家の個性が光っている。
 ジャパネスク趣味の作品では、他にラストベーダーの<黄昏の戦士>(三部作)などが、翻訳された。

 イギリス作家コンプトンは、以上の作家達とは、やや傾向が違うかも知れない。淡々とした文体、活劇はなく、静かに物語は展開していく。この作風は、六〇年代のデビュー当初から、ほとんど変わっていない。イギリスには、オールドウェーヴもニューウェーヴもなく、あるのは作家の個性だけ、とはイギリス人の自己評価だが、あながち外れてはいないだろう。(ベイリーもイギリス人だ)。本書の中では、主人公と未亡人との葛藤が、全編にわたって続く。それだけで、現実には何も起こらない。<月塵>、<消滅>などのタームは、背景としてのみ、意味を持つ。極めてストイックな心理描写が、ハーレクィン=シルエット風メロドラマに混入され、それがまた異質さ(非現実さ)を盛り上げている。こんな作品は、意外に受けるようになるかも知れない。

 七〇年代対八〇年代という言い方をしてきたが、実際問題、八〇年代作品に明白な傾向がないのが、むしろ特徴になっている。現象としてのSFでは、例えばファンタジーものの大量出版など、風潮がないわけではない。後でも触れるように、一般ベストセラーにSFが何編も顔を覗かせていたりする。そのことの是非はともかく、方向性の均質さを失った模索状態が、昨年のベストに選ばれた、八〇年代初期作から窺える。確かに作家個人は、そういう流れとは無関係に創作を続けている。しかし、受け入れられる作品の内容が多様化し、方向性を持たないのは、現代の要請だろう。これは、翻訳を企画する、我国の出版側にも言えることである。

 最後に、ベスト外の動きを簡単に追ってみよう。まず、ソノラマ海外SFシリーズが、意外性のある作品を中に含みながら、スタートしている。『宇宙の操り人形』(ディック)、『アメリカ鉄仮面』 (バドリスの初期代表作。しかし、この題名、なんとかして) などは、収穫に上げてもいい。コンクリンのアンソロジーを始めとして、スタージョン、カットナー、ヘンダーソン、ディウィドスンと、短編集も豊富だった。基本的に(いわゆる)五〇年代を指向しており、過去の作品の持つ良さを、若い読者に再発見してもらおう、という趣旨である。ただ、これらは、もともとのベスト・オブ・XXから、更に何編かを選ぶ過程を経たもので、オリジナルの持つ雰囲気を、必ずしも伝えていないものがある。

 昨年は、巨匠復活の年でもある。たとえば、『フライデイ』、『獣の数字』のハインライン、『ファウンデーションの彼方へ』のアシモフ、『2010年宇宙の旅』のクラークなど。その上、『砂漠の神皇帝』のハーバートまであるという豪華さ。アメリカでは、総てベストセラーのリストに入っている。ただし、これらの作品の大半は、題名や作者名(あるいは、映画化) が、中身より大書きされる内容だった。残念ながら、それだけ新味に乏しく、ベストの中には一編も選ばれなかった。

1984年書評作品全リスト
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1985年のベスト

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(SFアドベンチャー1986年4月号)

総括執筆: 野村芳夫(創作)+福本直美(翻訳)

bullet小松左京 『首都消失』(徳間書店)
bulletマーヴィン・ピーク 『タイタス・グローン』(東京創元社)
bullet荒俣宏 『帝都物語』(未完)(角川書店)
bullet坂村健 『電脳都市』(冬樹社)
bulletダグラス・ホフスタッター 『ゲーデル、エッシャー、バッハ』(白揚社)
bullet村上春樹 『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』(新潮社)
bulletロバート・L・フォワード 『ロシュワールド』(早川書房)
bulletマイクル・ムアコック 『エルリック・サーガ』全5巻(早川書房)
(メルニボネの皇子/この世の彼方の海/白き狼の宿命/暁の女王マイシュラ/黒き剣の呪い/ストームブリンガー)
bulletバリントン・ベイリー 『シティ5からの脱出』(早川書房)
bulletスティーブ・ジャクソン 『ソーサリー』全4巻(東京創元社)
(魔法使いの丘/城砦都市カーレ/七匹の大蛇/王たちの冠)
bullet田中芳樹 『銀河英雄伝説』1〜6巻(未完)(徳間書店)
bulletトム・リーミイ 『サンディエゴ・ライト・フット・スー』(サンリオ)
bulletオースン・スコット・カード 『無伴奏ソナタ』(早川書房)
bullet伊藤典夫・浅倉久志編 『宇宙SFコレクション』(スペースマン/スターシップ)(新潮社)
岡本による総括(同誌掲載分)

 一言で言えば、周辺分野の充実した年だった。小説外が、三割近くを占めた。評者個人のベストも、最終的に選ばれたベストも大差がないので、一般論としても、この感想はそれほど間違っていないはずだ。ノンフィクションは、どれもが厳密にはSF外である。しかし、SFというジャンルがなければ出てこなかったろうし、そういう発想がない時代なら、受け入れられなかったろう。選ぶ意義は、そこにある。

 もう一点、(国内、翻訳を問わず)シリーズが多いのは近年の流行としても、短編集の傑作が異例に多かった。既に、総括などで指摘があることだろう。最近特に感じることなのだが、現時点でのSFのもっとも完成した部分は、実は中短編にあるのではないか。第一に、技法が完成している点。市場が今でも続いており、積み重ねがある。手垢が付いて、今や神々しい光沢が増したアイデアを、破綻なく、しかも小説としてまとめるには、この程度の長さが一番適している。おかしな比べかただが、昨年の短編集は、同じ長さの長編を明らかに凌いでいた。ただし、そうであっても、時代は内情とは連動しない。ノウハウに乏しい (長い!) 長編が求められる。シリーズであればなお良い。だから、中身が間延びするのは、あまりに当然すぎる結果だ。たとえば、チェリイの 『ダウンビロウ・ステーション』 は、後半息が続かなくなっている。八〇年代期待の新鋭、ブリンの 『スタータイド・ライジング』 でも、中身以上に、技法的な問題を感じる。

 昨年の総括で述べた多様化は、ますます進行している。ベストの選出でも、その傾向が反映されている。まだ、同じ状態が続くはずである。だが、意外に早い時期に本格指向の復活があるかも知れない。

1985年書評作品全リスト
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1986年のベスト

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(SFアドベンチャー1987年4月号)

総括執筆: 鏡明(創作)+大野万紀(翻訳)

bulletE・R・エディソン 『ウロボロス』(東京創元社)
bulletかんべむさし 『弧冬黙示録』(中央公論社)
bulletイアン・ワトスン 『ヨナ・キット』(サンリオ)
bulletカール・セーガン 『コンタクト』(新潮社)
bullet野阿梓 『凶天使』(早川書房)
bulletウィリアム・ギブスン 『ニューロマンサー』(早川書房)
bulletR・A・ラファティ 『悪魔は死んだ』(サンリオ)
bulletジェームズ・ティプトリー・ジュニア 『老いたる霊長類の星への賛歌』(サンリオ)
bullet日本SF年鑑編集委員会 『日本SF年鑑1986年版』(新時代社)
bulletウォルター・テヴィス 『ふるさと遠く』(早川書房)
bulletかんべむさし 『笑い宇宙の旅芸人』(徳間書店)
bullet筒井康隆 『旅のラゴス』(徳間書店)
bullet荒俣宏 『帝都物語』(3〜7巻)(未完)(角川書店)
岡本による総括(同誌掲載分)

 一昨年のブリンに続いて、去年はギブスンが登場した。今年は、ギブスンの短篇集をはじめ、ベアなども紹介されるという。話題と期待を集めた同時代作家群も、ようやく“見えて”きたわけである。さて、その本命であった『ニューロマンサー』なのだが、予想通り、さまざまな反応を呼ぶ結果となった。詳細は、メインの評価でなされるだろうから、触れないが、はてさて話題を超越するほどの出来であったのかは、ちょっと態度保留としたい。短篇集も出ることだし。

 話題性といえば、ラファティ、ティプトリー、ワトスン、ディッシュ(『キャンプ・コンセントレーション』)らの、名のみ高かった作品が出版された。もう一世代、二世代も前の作家たちだけれど、生き残るものは、やはり (作品の質で) 強者ということか。重さを感じさせる作品。

 一方、我国の情況は、今一つ重量感に欠けるように思える。一人、かんべむさしの重い作品が目立ってしまった。重い作品ばかりである必要性はないが、全体に比べてのバランスの問題である。新人のデビューも、特に新書分野で多かったものの、道具として使う以上に、SFを昇華できた作品はなかったように思う。ベスト以外では、『ぬばたまの』を思い出させる、眉村卓『夕焼けの回転木馬』 が印象に残っている。

 その他に、SFを考える本として 『SFとは何か』、『SFキー・パースン&キー・ブック』、『SF大辞典』、『月世界への旅』、『最新版SFガイドマップ(作家名鑑編)』、また、最後の年鑑とされる 『日本SF年鑑1986年版』、『奇想天外、SF宝石インデックス』なども出た。これだけ出版された年は珍しい。今後、重版の機会も少ないだろうから、興味のある方は揃えておいたほうがいいだろう。

1986年書評作品全リスト
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arcbul3a.gif (92 バイト)1982年から86年の書評リスト(Excel版)
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