
オキシタケヒコは1973年生まれ。2012年に第3回創元SF短編賞の優秀賞を受賞し、2014年にシリーズ最初の作品『筺底のエルピス-絶滅前線-』を書いた。これが著者の初長編である。爾来12年(正確には11年9ヶ月)、この第9巻をもってシリーズは完結する。全9巻は著者の構想通りだが、出版に12年かかったのは想定外だったようだ。以下の作品紹介は内容に触れるため、読後にお読みいただくことをお勧めする。
『筺底のエルピス -絶滅前線-』(2014/12)
《門部(かどべ)》は異星のテクノロジーで作られた《門》を守り、千年以上の昔から殺戮因果連鎖憑依体=鬼を狩り続けている隠された集団だ。鬼は恨みや怒りを増幅し人に取り憑く存在である。さらに大きな災いをなす《白鬼》の徴が、現場を担う封伐員の友人に顕われる。それを奪うため同じく《門》を擁する《ゲオルギウス会》が介入してくる。
『筺底のエルピス2 -夏の終わり-』(2015/8)
《白鬼》の少女は《門部》に保護されるが、流星群が流れる真夏の夜に事態は変わる。《門部》の上層部とそれに抗う離反者たちが争い、第三の巨大組織《THE EYE》=《I》が絡んでくる。3つの組織間抗争が巻き起こり、停滞フィールドを自在に操る「棺使い」たち同士の死闘が繰り広げられる。
『筺底のエルピス3 -狩人のサーカス-』(2016/3)
不死者の軍団《I》の侵攻により《門部》本部は陥落。少数の封伐員たちがかろうじて脱出するものの、かつての同僚たちまで敵となって彼らを追い詰める。事態を打開するため、元《I》所属の天才による「勝ちはしないが負けない」作戦が開始される。
『筺底のエルピス4 -廃棄未来-』(2016/6)
《門》が正常に働かず、鬼を消滅させる唯一の手段が失われる。このままでは世界は滅亡するだろう。残虐な無敵の不死者が追いすがり、仲間は容赦なく失われていく。しかし「すべてを取り戻す」ため、時空を超えた選択が行われる。
『筺底のエルピス5 -迷い子たちの一歩-』(2017/8)
時空改変は、望まない未来を棄てることになる。それによって危機を逃れた世界を選ぶことができるのだ。死者は蘇り、時間は巻き戻される。しかし、陰惨な別の時間線から来た1人の封伐員は、自分の居場所を探して苦しむ。
『筺底のエルピス6 -四百億の昼と夜-』(2019/1)
滅亡回避をめざして、反目し合っていた3つのグループは同盟を結ぼうとする。封伐員のリーダーは、特使として不死者の首魁と会談する。一方、異星知性体の目的が本格的に議論される。タイムループの中で繰り返されてきた万におよぶ人類史と、異星人絡みの宇宙スケールの謎に解はあるのか。
『筺底のエルピス7 -継続の繋ぎ手-』(2021/2)
月に潜む異星知性体がついに動き出す。《門》は一撃で制圧され陥落してしまう。異星知性体の目的は《白鬼》の確保だった。しかし、彼女が連れ去られれば人類の滅亡は確定する。タイムリミットが迫る中、敵味方が逆転した《門部》本部の奪還が試みられる。
『筺底のエルピス8 -我らの戦い-』(2025/4)
なんとか管理権限の喪失は回避したものの、再び乗っ取られるまで「あと50日」という期限が切られる。異星知性の侵攻を阻むため、月を目指す宇宙船が急遽準備される。地球側は一致団結し、人類の存亡をかけた総力戦の準備が進められる。
『筺底のエルピス9 -絶望時空-』(2026/9)
異星知性体によって各組織の拠点が壊滅的打撃を受ける。一方、ゲートを経由して月に到達した特使は、ついに知性体との邂逅を果たす。ここにすべての謎が明らかにされる。全宇宙の命運すら決する《白鬼》が出した答え、そして絶望時空とは。
物語は、殺戮因果連鎖憑依体とか停滞(ステイタス)フィールドとかの古典的なSF(風)用語を駆使し、伝奇/オカルト物のようにして始まる。もちろんラノベのレーベルなので、女子高生とか夏休み、プラトニックな恋心とかの設定もあるのだが、情け容赦なく主要登場人物たちが死んでいく展開で、そういうムードは早々に払拭される。実のところ物語は4巻目でいったんバッドエンドにて終了しているのだ。ところが5巻目で大胆な巻き直しが行われ、登場人物たちも(並行宇宙的に)復活する。以降、アベンジャーズのような地球危機に挑む物語として、一気にスケールアップしていく。
少し前のインタビューで、著者は「まず最後の一番大きな箱があって、そこから逆算するかたちで小さな箱を内側にどんどん詰めていく」と述べている。実際この物語では、途中に登場する細かな人物や伏線の類いが、最終巻にかけてすべて(ほとんど?)回収できている。封伐員の能力や出自、《門》がなぜあるのか、どういう原理で動くのか、異星知性体とは何か、さらには《白鬼》の正体と、著者には最初から見えていたとはいえ、数え切れないほどの謎に解をを用意できる並ならぬ構成力をまず評価すべきだろう。12年間このテンションを維持できる持久力にも感心する(7巻から8巻までに4年かかっているのは、編集者の交替など出版側の事情もあったようだが)。結果的に、伝奇/超常+ループ+異星人/宇宙+兄妹/双子ものという、日本SF史上類を見ない組み合わせの妙を愉しめるシリーズに仕上がっている。
- 『おそれミミズク』評者のレビュー








