
Cover Design:森敬太(合同会社飛ぶ教室)
架空ゲーム評の本『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』(2017)で知られる著者の最初の短編集である。副題にあるとおり、すべての作品が何らかのゲームにまつわるお話であるのが特徴だろう。全11編中6編はWebカクヨムで公開(現在は読めない)、4編が紙魚の手帖などの雑誌やNOVA掲載作、書下ろしが1編となっている。
それはそれ、これはこれ(2021)ゲームの返金を求めるカスタマーがサービスと会話をする。しかし返ってくる質問はどこか的外れで、そんなことを訊く理由が読めない。
お前のこったからどうせそんなこったろうと思ったよ(2018)フレーム単位で対戦相手を見切るゲーマーが、即時性の望めない月在住のライバルとあえて勝負をする。
「癪に障る」とはよく言ったもので(2022)海底ケーブル保守会社の入社式で、話し下手な幹部が語る会社発展の契機ともなったゲームソフトの特性とは。
邪魔にもならない(2018)古典的なゲームのスペランカーをクリアするRTA(リアル・タイム・アタック)は、6分以内がタイムリミットだった。
全国高校eスポーツ連合謝罪会見全文(2021)eスポーツ大会で退場処分を下した審判の判定を巡って、謝罪に追い込まれた理事長の説明と質疑応答の全容。
ミコトの拳(2021)主人公は自分がゲーム中の仮想キャラクターだと思い込んでいた。その状況を越えるためには、大岩を正拳で打ち抜かねばならない。
ラジオアクティブ・ウィズ・ヤクザ(2022)博打打ちの男が、放射性物質の違法所持で追われている。それは前代未聞のイカサマに関わるものだった。
これを呪いと呼ぶのなら(2024)ネット発言が原因で業界から離れていた男が、久しぶりに仕事に復帰、呪いがかかると噂される中東を舞台にしたゲームをプレイする。
本音と、建前と、あとはご自由に(2021)VTuberの主人公が裁判で尋問されている。配信したゲームが、反政府活動に関与したと認定されているからだった。
〝たかが〟とはなんだ〝たかが〟とは(2024)1989年、ハンガリー国境からオーストリアへ逃れようとするロシア人科学者が手土産として持ち出そうとしたものとは。
曰く(書下し)主人公は、孤独死したゼイリブ好き先輩ゲーマーに取り憑かれる。ひたすら般若心経を唱えて鎮めようとするのだが。
表現が一人称とは限らないものの、多くの作品が一人称的な独白(一人の視点)で綴られている。Q&A、記者会見、尋問などの形式で、会話風に状況が明らかになるものもある。これらは、社会や世間に対してメッセージを叫ぶのではなく、とにかく聞いてくれる人(理解は求めない)に蘊蓄を語りたいというゲーマーの孤独感を象徴するかのようだ。
小説のバランス的には、過度に執拗だったり逆に説明不足なものもあって、少しばらつきを感じる。ただ、それもまたゲーマー心理を反映しているのかもしれない。主人公がしだいに狂気に蝕まれていくホラー「これを呪いと呼ぶのなら」、頭のおかしい(褒めていません)諜報員と冷めた亡命科学者の対比が面白い「〝たかが〟とはなんだ〝たかが〟とは」が特に印象に残る。
- 『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』評者のレビュー