著者はインドの作家、ゲームデザイナーでインド南部にあるハイテク拠点都市ベンガルール(旧名バンガロール)に在住。インド系米国作家や米国在住作家の本はこれまでもあったが、インド在住の作家が書いたSF単行本(文庫)は、これが本邦初紹介となる。2021年のタイムズ・オブ・インディアのオーサー・アワード新人賞(女性作家が対象)やバレー・オブ・ワーズ賞を受賞し一躍注目を集めた作品だ(当時の書名はAnalog/Virtual)。2024年にはアーサー・C・クラーク賞の最終候補にもなった(この再編集バージョンThe Ten Percent Thiefが本書)。目次もなく短編集とは書かれてはいないが、「頂点都市(Apex City)」を舞台とする20の短編を集めた連作短編集である。
著者はマーガレット・アトウッドに師事した英国の作家で、ゲームライター、BBCラジオ科学番組のプレゼンターなど多彩な仕事をこなす才人だ。先に出た『パワー』(2016)は、ベイズリー賞(現在の女性小説賞Women’s Prize for Fiction)を受賞し、世界的なベストセラーになりドラマ化もされた。本書は、(GAFAのような)テック企業の覇者たちがたくらむ「未来」に、一人の(ユーチューバーのような)動画配信者が関与していくという物語である。なお、表紙のウサギとキツネのキャラは農耕民と遊牧民を象徴したもの(何のことかは本書で)。