
カバー装画:森田康平
著者は1976年生まれのカナダ人作家。怪奇・超常ホラー/ミステリを主体に書いている。長編は本書を入れて3冊と少ないが、多くのアンソロジイなどに寄稿する中短編作家のようだ。この作品が単行本としては本邦初紹介となる。
私立探偵の主人公のところに、行方不明者捜索の依頼が入る。依頼主はトロント郊外のシカモアに住み、夫を捜してほしいという。そこは何もなさそうな小さな町だった。しかし、不明者の妻が話し出した内容はとても不可解なものだった。
この世界では80年ほど前から、ポータルと呼ばれる異世界への門がランダムに開くようになった。それは常闇の〈ブラックランド〉とつながっている。ポータルは不可視で〈ブラックランド〉の危険な異形たちが漏れ出てくる。吸血鬼や人狼、アンデッド=ゾンビなど、遭遇すれば死を免れ得ない。
物語は連続殺人事件で幕を開ける。殺人などめったに起こらなかった田舎町のため、地元警察も捜査に行き詰まっている。その事件と行方不明者とは関係していた。依頼人はまだ何かを隠している。やがて、ポータルの存在が顔をのぞかせる。
私立探偵には離婚した妻がいて、探偵事務所ではいつも罵られている。元妻には調査の才能があり、仕事の上では別れられないのだ。主人公はこれまでポータル絡みの事件を解決してきた(中短編での先行作があるようだ)。軽口で抜けがあるのに妙に義理堅く「オカルト版(ロバート・B・パーカーの)私立探偵スペンサー」を自称するが、登場する怪しい女性たちに翻弄され、助けられ、最後は追い詰められていく。
本書もまた二転三転する特殊設定ミステリである。ポータルについてはSF風(怪獣が出てくるわけではない)、怪物はホラーの定番を踏襲し、連続殺人の犯人捜しは意外性を伴うミステリと、テーマは程よくブレンドされている。明らかになる犯人の正体はなかなか意表を突いている。ただ、それぞれの設定は既存のものが多く、組み合わせの妙味はあるものの新規性はやや乏しい。あえてそうした上で(1970年代頃の)探偵ものを書きたかったのかもしれない。
- 『記銘師ディンの事件簿 木に殺された男』評者のレビュー









