『GENESIS 創元日本SFアンソロジー 白昼夢通信』東京創元社

装画:カシワイ
装幀:小柳萌加・長崎稜(next door design)

 全編書下ろしの《GENESIS 創元日本SFアンソロジー》第2巻。《年刊日本SF傑作選》が終了したことにより、次号(夏季号とあるので、季刊ないし半年刊化?)は、創元SF短編賞受賞作の掲載受け皿ともなるようだ。

 高島雄哉「配信世界のイデアたち」アニメ制作会社で働くSF考証の女の子の活躍は、遠い銀河で活動するスライムと共鳴し合う。石川宗生「モンステリウム」町の広場で佇む巨大な怪物を、学校の生徒たちが観測する。空木春宵「地獄を縫い取る」〈体験〉がネットの中で自由に流通する未来、児童買春対策に開発されたAIが事件を誘引する。川野芽生「白昼夢通信」展覧会のカタログを集めた図書館/人形つくりの街、遠い空間と時間を超えて2人の手紙のやり取りが続く。門田充宏「コーラルとロータス」行方不明になった社員の記憶データの中で、珊瑚は重要なヒントを見つけ出す(シリーズ作品の枝編)。松崎有理「瘦せたくないひとは読まないでください。」太っていることが罪悪となった未来、ダイエットを競う大会で脱落者には死が待ち受ける。水見稜「調律師」国家が力を失い文化が衰退した社会、主人公は火星の富豪が主催するパーティーでピアノの調律を引き受ける。

 全7編を収録。これ以外に、アンソロジイのあり方についての中村融、西崎憲によるエッセイを含む。表題作「白昼夢通信」の川野芽生は、創元ファンタジイ新人賞最終候補者。前巻同様、オール創元(関係)メンバーというスタイルは踏襲されている。

 高島雄哉は正業のSF考証をスケールアップしてアレンジ、石川宗生は架空の街ムンダロールに現れた怪物と日常との対比、空木春宵はAIと室町時代の地獄太夫を両立させ、川野芽生は創元SF短編賞では見られない幻想色を漂わせ、門田充宏は既に単行本が2冊ある人気シリーズ、松崎有理は著者らしい科学的ブラックユーモアを展開する。中では、水見稜の新作書下ろしが読めるのが嬉しい。ピアノ調律に関する蘊蓄に溢れるが、著者の作品では『マインド・イーター』でピアニストが登場するし、「アルモニカ」には音楽療法が出てくる。この方向の作品も、これから書かれていくのではないか。

 前巻と重複する作家は松崎有理のみ。ではあるものの、同様のメンバーによるオリジナル・アンソロジイ『時を歩く』を挟んだこともあり、ややライトな印象を受ける。短編発表の場を提供するという考え方は正しいが、アンソロジイとしてもう少し工夫があってもいいかもしれない。