
装画:森優
装幀:早川書房デザイン室
著者は1973年生まれの米国作家。デビューは99年でファンタジイ長編などを手がけてきたが、本書収録の「報酬は猫の写真で」(2015)がローカス賞、ヒューゴー賞を受賞、他2賞でもファイナリストとなり俄然注目されるようになった。本書はそんなクリッツアーの受賞中短編5作+ヒューゴー賞最終候補1作をまとめたもので、アメリカでもまだ出ていないベスト版の日本オリジナル作品集である。
小さな図書館の司書さまへ(2020)L:庭先に設けられた小函は、誰でも本の交換ができるシェア図書館だった。ただ、借り手の誰かは本の代わりに「もの」を置いて行く。
陽の光が消えた町で(2023)H、N:大気中に塵や灰が満ちて陽が差さなくなった。インフラが制限される中で、町の住人たちはコミュニケーションを立て直して助け合う。
怪物(2020):遺伝学の教授となった主人公は、当時気が合った高校時代の友人を追っていた。友人は頭は良かったが、思いも拠らない別の領域に足を踏み入れていた。
報酬は猫の写真で(2015)H、L:アシスタント型のAIが、ロボット三原則に従う倫理規範についてその可否を独白する。アシストの報酬は猫の写真で。
海を見渡す四姉妹(2024)H、A:夫が大学のサバティカルで東海岸に引っ越す。住むのは海沿いの田舎町だったが、主人公はそこでかつて諦めた研究対象と再会する。
アルゴリズムでよりよい生活を(2023)H:そのアプリはよりよい生活を提案する。しかも、見知らぬ他の人たちも巻き込んで。
*L:ローカス賞、H:ヒューゴー賞、N:ネビュラ賞、A:アシモフ誌読者賞
ヒューゴー/ネビュラのダブルクラウン(ローカス、スタージョン記念賞でも最終候補)となった表題作は、分断の時代に共助を唱えるお話だ。ここでは政治も宗教も人種も、もちろん世界情勢も問題にされず(経済格差は少し顔を覗かすが)、人道だけがクローズアップされる。しかも声高ではなくソフトに。
最近翻訳された作家でいうと、サラ・ピンスカーと双璧を成す人気作家である。日常から異質な世界へとシームレスに連なる物語が多く、ファンタジイ(「小さな図書館の司書さまへ」)やホラー(「怪物」、ジェンダーテーマでもある「海を見渡す四姉妹」)の要素が強い。ただ、どの作品にもほのかな希望が感じ取れる。AIでさえ人間的なのだ(「報酬は猫の写真で」「アルゴリズムでよりよい生活を」)。その点は韓国SFの多くの作品とも共通する特長だろう。評価の高さを見ても、これが(少なくともアメリカの、あるいは現在の)読者に求められているSFなのだとわかる。
- 『いつかどこかにあった場所』評者のレビュー








