
小学館P+D BOOKSによる眉村卓復刻本の6冊目。順調な刊行で、この叢書の他の著名な作家たちと比べても注目度は高いように思われる。本書は著者の2冊目の単行本で、最初の短編集でもある。初長編『燃える傾斜』(1963)が出た2年後の1965年9月に、ハヤカワ・SF・シリーズの一環として出版された。この中には早川書房の空想科学小説コンテスト(中断を挟みながらも現在まで続くSFコンテストの第一回)で佳作(第二席)となった「下級アイデアマン」が含まれている。
第一部 現在
いやな話(静かな終末、1963)夜明け前の番組でTVが伝えること。ピーや(奇妙な妻、1962)存在感の薄い男はピーと呼ぶ猫を飼っていた。不満処理します(枯れた時間、1962)古ぼけた店で見つけた品物には、やりきれない時に使うものとの説明書きがあった。交代の季節(奇妙な妻、1963)何かが違う。ちょっとしたことが積み重なりどんどん膨らんでいく。奇妙な妻(奇妙な妻、1964)会社が倒産した。ところが妻は慌てることなく次の勤め先を薦めてくる。
第二部 近未来
決算の夜(影の影、1962)タイムマシンが完成した。しかし未来に行くか過去に行くかは五分五分だった。悪夢の果て(影の影、1963)男は会社命令で感応移動を訓練する学校に送り込まれる。クイズマン(産業士官候補生、1964 )プロのクイズマンチームは競争も過酷だった。そこに有力な新人が加入する。暗い渦(影の影、1964)ブレーンスタッフから落ちこぼれた中年男は、セクソイド・センターの存在を知る。
間奏曲(ショートショート)
浜近くの町で(枯れた時間、1960)島から抜け出した男は絶え間ない暴力に晒される。夜のたのしみ(枯れた時間、1961)笑顔を嫌う男の運命など2つのエピソード。われらの未来(枯れた時間、1962)恐るべき未来のビジョンには希望はなさそうだった。お別れ(枯れた時間、1961)幼い俺にお別れを告げたものは。
第三部 遠未来
わがパキーネ(重力地獄、1962)他星との交流が進んだいまでも、人と酷似したパキーネとの関係には緊張を強いられる。使節(重力地獄、1964 )植物由来の知的生命たちは「使節」と称して金属製の箱を調査隊に託す。時間と泥(重力地獄、1964 )知能と行動とを結びつける部位が疫病で失われた異星文明の下に、人間たちの探検船が着陸する。正接曲線(重力地獄、1964)その惑星の原始的な住人は異様に好奇心が強く、調査の自由と引き換えに知識の伝授を要求する。還らざる空(還らざる空、1964)ドームに覆われた都市で、空を投影する装置に故障が生じる。準B級市民(還らざる空、1962/64)主人公は人工的に生まれた政策出生者だったが、階級相応に割り当てられた仕事にはなじめなかった。下級アイデアマン(重力地獄、1960)エリートであるアイデアマンは心安まる仕事ではなかった。最下級の主人公は劣等感に苛まされながらも、水星基地に派遣されそこで異常事態に遭遇する。
*括弧内に示したのは後の組み替え短編集。『静かな終末』(2021)以外はどれも現行本では入手できない。
著者はこの時期、作風をさぐる模索期であったためか、さまざまな傾向の作品を発表する。日常的なもの、幻想的なものから宇宙SFまでと内容はとても幅広い。これら初期の短編の多くは、その後複数のテーマ別作品集(奇想性が強い『奇妙な妻』、日常から地続きの異世界を描く『影の影』や『枯れた時間』、ディストピア的な未来の『産業士官候補生』や『還らざる空』、宇宙ものの『重力地獄』など)に組み替えられた。読みやすさを重視したためだ。しかし、半世紀以上を経たいまならば、発表順に戻し時代の空気を感じ取るという読み方にも意味があるだろう。
第一部の中では不条理が積み重なっていく「交替の季節」、第二部では長編『わがセクソイド』の原型でもある「暗い渦」(著者の近未来ものは、半世紀後の「いま」になってその先見性が再評価されている)、第三部では「わがパキーネ」などが印象深い。アイデアSF要素の強い宇宙ものは、当時人気があったものの著者自身は納得していなかった(たとえば「使節」の解題で「好きではない」と書いている)。これは10年後に《司政官》として再構築されることになる。
- 『異郷変化』評者のレビュー









