
扉イラスト・デザイン:コバヤシタケシ
著者は1997年生まれのフランス作家。人気作家で、本書はゴンクール賞の候補にも挙がったことがある。書かれた当時はまだコロナ禍の影響が残り、ザッカーバーグがメタバース「Meta Horizon」を立ち上げて話題になっていたころだ(現存するが成功はしなかった)。物語には(わずか4年前とはいえ)時代の雰囲気が色濃く漂っている。
ある日、Facebookに新しいアカウントが作られる。初め誰の関心も引かなかったそのアカウントは「象徴的行為」を実行すると予告する。主人公はパリ郊外に住む音楽家で、バーで演奏したりピアノの個人レッスンでなんとか生計を立てていた。バッハをアレンジしたアルバムを作ろうとあがいていたものの、作詞作曲に実績があるわけでもなく目処は立たない。長く同棲していた彼女とも別れ、ただ怠惰にPCの画面を眺めるだけだった。そんなとき『反世界(アンチモンド)』の広告が目にとまる。
『反世界』はメタバースそのものだ。主人公はアバターを作って、世界に入っていく。人生のやり直しである。その外観は現実とまったく同じに造られている。パリはパリそのまま、ニューヨークは細部に至るまでニューヨークそのまま。ただ、『反世界』を律する創業者が規範とするのは、先行他社のテック信仰(加速主義)ではなく『聖書』なのだった。やがて、PNJ(英語のNPC)のセルジュ・ゲンズブールと出会い、『反世界』の中で主人公はゲンズブールを超える成功者として騒動の渦中に巻き込まれる。何もかもが駄目だった現実の人生とは大きく異なっていた。
『反世界』は、なろう系異世界ではなく現実の写し絵である。ただし、創業者が神(アカウントの生殺与奪が自由)という世界でありながら、どんな行動でも許される非道徳的な(本文中でも言及のあるクライムゲーム「グランド・セフト・オート」のような)ゲーム世界でもあるのだ。黙示録の光景といえなくもない。それなのに、冒険アクションにはならず、理屈がとても文学/哲学風に語られ、主人公が詩でヒーローとなるなど、英米とは一線を画するフランスの嗜好が感じられる。
- 『7』評者のレビュー








