
カバーイラスト:子畑
カバーデザイン:坂野公一+吉田友美(well design)
発売たちまち重版という人気作である。いかにもネットネームらしいqntm(クォンタム)は、英国在住で1983年生まれの作家。本書はもともと「SCP財団」(日本を含め世界中に支部がある)掲載のネット創作で、大きな反響を呼んだことからプロ出版(全面改稿版)に結びついたという。ミームはもともとドーキンスの唱えた情報/概念の遺伝子である。生物の遺伝子と同様に、情報的な遺伝も人(親)から人(子)へと継承され変異を経て拡散していくのだ。ネットでの使い方はもうちょっとくだけていて、画像などのバズったコンテンツ、実在/非実在の都市伝説を指したりする。しかし、反(アンチ)ミームとはどういう意味だろう。
主人公は反ミーム部門の部門長だった。その日、英国・アイルランド地区〈機関〉の責任者から呼び出しを受け、面談のためにオフィスを訪問する。だが、いきなり不本意な尋問を受けることになる。
物語は、主人公の一般人(音楽家)の夫、上司、部門の部下や同僚らと、U-XXXXという番号が振られた不詳存在(アンノウン)との関わりを描く複数のエピソードからなる。主人公はアンノウンが顕わになる事態を防ぐ役割なのだ。
帯の惹句に「この敵を誰も覚えていられない」とあるが、この物語は記憶の喪失を重要なキーワードとしている。認知症などで起こる短期記憶障害(ちょっと前のことを忘れてしまう)とは違って、ある物事(例えば特定の人物)全体が選択的に失われたりする。登場する不詳存在のアイデア自体はSFに昔からあるが、不確かさ(記憶を失った者は、消されたことすら認識できない)による迷宮感が物語全般に溢れているのが特長だ。
アンノウンはホラー的な怪物であり、ミームといっても物理的な力を及ぼす。それに対して反ミーム部門は「X-ファイル」(本文中に言及がある)風の個人ではなく組織で対抗する。ホラーネタの宝庫SCPを、SFの理屈で解釈したのが本書の新たな切口といえるのかもしれない。
- 『残虐行為記録保管所』評者のレビュー










