
装丁:岡本歌織
第175回芥川賞を授賞した作品。VR空間の中でゾンビを回収するお話ということで読んでみた。本書は2026年5月号の「群像」掲載作で、250枚余(160ページ)の中編小説になる。著者は1990年生まれ。すでに「家庭用安心坑夫」(2022)で第65回群像新人文学賞を受賞し第167回芥川賞候補作に、「猿の戴冠式」(2024)でも第170回芥川賞候補、三島由紀夫賞や野間文芸新人賞でも候補となっている。この2作もSF的な奇想小説(といっても現実との結びつきも強い)で、文庫版『家庭用安心坑夫/猿の戴冠式』としてまとめられたばかりだ(単行本版はそれぞれが別々だった)。かねてから注目を集める新鋭作家といえる。
主人公は木っ端微塵に吹き飛んだ体の断片を回収している。床や壁などにこびりついた血や肉をこそげ落としサルベージする。ここはホテルだった。そして主人公はホテルでただ一人の掃除夫、ゾンビ回収婦である。今日もどこかで戦闘と爆発が起こり、ゾンビが粉々に飛び散っている。
ある日、夫と主人公とに同時に解雇予告が届く。これはAIのせいだもう働かなくても良くなったのだ、と言って夫は消え去ってしまう。じゃまにならない夫だったし、会社の中での自分の存在感はなくなっていたとはいえ、一度に消えてしまうと喪失感が大きい。夫の部屋にはVRヘッドセットがあった。付けてみると、一瞬のうちにゲーム世界に入り込んでしまう。
アウトブレイクが起こりゾンビが大発生、閉じたホテル(ザ・グランド・口唇期ホテル)に潜入してその群れを撃滅するゲームらしい。ところが主人公はゲームの参加者(プレイヤー)ではなくNPC(ノンプレイヤーキャラクター、ゲームシステム=AIが動かすキャラ)の掃除婦となってしまう。ひたすらゾンビの残骸を回収する仕事に没頭するのだ。そんな中で、とても臆病なゾンビを見つける。
作品の発端には父親が遊んでいたゲーム「バイオハザード」があるという。モニタ画面のゾンビはかなり恐ろしかったようだ。ゲームのゾンビは、外観は凶悪でも個性を持たない単なる標的に過ぎない。本書のゾンビやNPCも大半は同様なのだが、消耗品に見えないものもいる。社会的関係や人間関係も拒絶された主人公は(そして背後にいるゲーム制作者は)自身の承認要求(報われたい)と、自身が存在する意味を捜して迷走する。
- 『東京都同情塔』評者のレビュー









